内容説明
読者を共犯者に、旅の道連れに、仕立てあげること―二通りの読み方をもつ開かれた書物。『ユリシーズ』の実験的技法を用いながら、パリ、そしてブエノスアイレスを舞台に現代人の苦悩を描いた、ラテンアメリカ文学屈指の野心作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
彩菜
28
物語を書いた。夢と覚醒が溶け合う処、習慣の裏側を探す男の物語だ。私はそれを言葉で書かねばならなかった。言語は思想と同じく私達の脳髄の二分法的働きから発する。イエスかノーか正か負か。そんなもので陰と陽の間にあるあの悠久の時を捉える事など出来ない。だが言葉で書いた。だからそれは私の曼荼羅の素描のようになった。ピカソが玩具の自動車を狒々の顎に変え、水素と酸素の結合が水となる、そんな風に読んで欲しい。それは橋だ、作者と読者、私と君、愛でさえ届かない悠久の間の。物語は橋の片側で、橋は片側だけでは支えられない、君!2021/12/20
おおた
20
箸が転がっても面白い歳の感性を持ち続けたまま40歳を越えてしまったオリベイラの悲喜劇。男同士くだらないことで盛り上がる一時的なパッションは部活のノリで、そこに女性が入り込めないのも同じ。ただ悲劇なのはその先に進むべき道が石蹴り遊びの「天」であること。現実的には何も効力を持たない思考に囚われるオリベイラの生き方は、短い版の読み方では破滅に向かってじわじわと滑り落ちていくよう。第二の読み方ではその支離滅裂な思想の補助として、抽象という石蹴り遊びを行うことになるだろう。2016/12/30
saeta
16
第1の読み方を読み終え、ついでに「その他もろもろの側から」も続けて読んでみた。「向こう側から」編でパリでジャズの話が出てくると、何となくボリス・ヴィアンを思い浮かべたので、さほど新鮮ではなかった気がする。2通りの読み方が出来るなどの触れ込みもあり、「去年マリエンバードで」のような知的な仕掛けが用意されているのかと期待したが、この構成なら恐らく分離・再構築しても成立する内容だと思う。時を経て、第2の読み方へチャレンジするのもありかも。2016/12/01
ぷるいち
13
二通りの読み方、コラージュ的技法、シュルレアリスムという「派手」な部分を抜きにしても、この小説はすごくよくできている。そして、よくできた長編を読んだときはいつもそうであるように、何も形容できるものは残されていない。この小説の場合、幸いなことにまだもう一つの読み方が残っているということもある。それが実は無限につづくのです。2016/09/30
pynchon
9
第一の読み方で読了。 いやー。とりあえず読んだって感じであるが結構辛かったです。一通り登場人物はわかったので第二の読み方に挑戦します。 第1章とトレパの話とタリタのマテ茶を運ぶ話が印象的でした。2016/12/30