内容説明
記憶の迷路…書くことの迷路…遠い記憶の断片の彼方から立ち現われる孤独な生の歩み…“自伝”的フィクションの新しい地平をひらく!
著者等紹介
モディアノ,パトリック[モディアノ,パトリック] [Modiano,Patrick]
1945年、パリ近郊ブーローニュ=ビヤンクールに生まれる。小説家。2014年、ノーベル文学賞を受賞
余田安広[ヨデンヤスヒロ]
1950年、京都府福知山市に生まれる。京都市立芸術大学、パリ国立高等音楽院、エコール・ノルマル音楽院を卒業。現在、北海道教育大学非常勤講師、ミュージック・ライター(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
らぱん
53
味わい深くとても魅力的な作品だった。 隠遁している老作家のもとに未知の人物から電話が来る。それをきっかけに幼年時代とそれを調べた青年時代という自身が忘れていた二つの過去を思い出す。三つの時制の混在はまるで誰かの夢の中にいるようで、物語は現実的でありながら幻想的でもあった。 喪失の苦さも追憶の甘さも靄の向こうに曖昧な輪郭で像を結び、それらがやがて溶けていく。孤独や厭世すらも肯定する静かな力強さがあった。2020/07/27
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
23
うーむ…迷ったまま読み終わってしまった。作家である主人公の男と、人探しをする2人の男女、主人公と一緒に暮らしていたらしいアニーという女。アニーは逃げ続け、主人公は自分の過去を証言する人々と話しながら、向き合いたくない過去と向き合おうと努力しているように見える。主人公は「彼」なのにとつぜん「きみ」と呼びかける。つまりだ、よくわからんまま終わったという事だ。ノーベル賞作家である。2017/04/21
ぞしま
22
モディアのは何冊か読んだけど、これに出会うためだったのかしら。すぐ眠くなるはずなのに(平日に)夜を通して読んでしまった。 不穏さに充ちた予感の向かう先が(自身の)過去であるという(ある種確信にみちた)構造的倒錯は、著者の他作品でもあったと記憶している。記憶の欠如、そこから生まれる空隙、を謎解きの推進力として語られる物語は、個に埋没する卑小さの面を被るようでいながら、感情のひだにしみ込む豊穣さが充ちていた、読むことはかくも幸福かと錯覚するほどに。多くが(あまりに多くが)行方知らずなことも非常に好みであった。2020/07/16
きゅー
16
今回の作品でもモディアノらしさはいつもどおり。初期の作品では一本の糸に従ってゴールを目指しているように見えたが、年を経るに従ってしだいに「小説らしく」なくなり、自由闊達に物語は綴られるようになった。そして、物語の結末を期待するのではなく、彼らの人生の道筋を共にたどる愉しみへと変わっていった。その心地良い感覚がモディアノ中毒の所以かもしれない。半世紀前のこと、その15年後、それらに現在が重なりあって記憶の層を作る。「あなたがこの辺りで迷わないように」と書かれた紙が、私たちの道標となり、そして消えていく。2015/08/27
kthyk
15
謎から始まる探偵小説はページが進むごとに謎が解けるのだが、この小説は謎は深まるばかりだ。登場人物も場所も時間も読み進むごとに曖昧になり、気がついて見るともう最終頁だった。モディアノはいつも喪失と置き去りの物語だが、この小説は早読みの読者は読者自身が、迷子のまま置き去りにされる。「この辺りで迷わないように」と言う題名は読者へのメッセージだったようだ。あとがきでは、「小説のいのちは何が書いてあるかではなく、いかに書かれているか」にあると書かれていたが、なるほど、小説の面白さは迷子になるところにあるようだ。2020/12/12
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