出版社内容情報
夫婦のあいだだけとはかぎらない揺れ動く男女関係のなかで、愛に似たなにかが萌し、またそれが愛として完結したとすると、じつはもう愛の本質から外れたことになる。小島信夫が初期の作品で追い求めていたのは、愛からはみ出していながら、そのはみだしをふくめた全体が愛と呼ばれうるという構造的な矛盾と柔軟性だった。(堀江敏幸「解説」より)
小島信夫の全短篇を網羅するシリーズ、第3回配本。
人間の生を鋭く穿ちつづける小島の小説世界は、アメリカ滞在での経験、そして夫婦のセックスをめぐる考察を経て、新たな段階へと突入する――
生(性)と死が交錯する謎めいた名篇「愛の完結」、姦通というモチーフを男と女それぞれの視点から探究する「黒い炎」「神のあやまち」、カフカ的戦争小説とも呼ぶべき不条理劇「城壁」などの他、単行本未収録作品「赤い布のついたビン」「清滝寺異変」「ケ・セラ・セラ」「塙善兵衛のこと」「東京の忍術使い」をふくむ、全20篇(1956〜1959)を収録。
目次
巡視
愛の完結
赤い布のついたビン
清滝寺異変
黒い炎
ケ・セラ・セラ
覗かれる部屋
神のあやまち
教壇日誌
狼藉者のいる家
広い夏
異郷の道化師
贋の群像
アメリカを買う
デイトの仕方
城壁
汚れた土地にて
家と家のあいだ
塙善兵衛のこと
東京の忍術使い
解題 柿谷浩一
完結することのない愛を支える方法 堀江敏幸
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tonex
2
小島信夫の全短篇小説を収録するシリーズの第3巻。渡米体験を元にした一連の作品が良かった。アメリカ社会の暗い部分をじっと見つめる観察眼。【収録作品】巡視、愛の完結、赤い布のついたビン、清滝寺異変、黒い炎、ケ・セラ・セラ、覗かれる部屋、神のあやまち、教壇日誌、狼藉者のいる家、広い夏、異郷の道化師、贋の群像、アメリカを買う、デイトの仕方、城壁、汚れた土地にて、家と家のあいだ、塙善兵衛のこと、東京の忍術使い(解題=柿谷浩一、解説「完結することのない愛を支える方法」=堀江敏幸)2015/02/26
あさぎ
0
「異郷の道化師」「広い夏」が本当におもしろい。ホームステイ先の家族を外部の者の、冷徹な眼で見ると、こう映るのかというおもしろさ。うまく説明はできない。異様なほどに家畜やら人物やらが、あるがままとしかいえないような動き方や喋り方をするので本当に驚く。他の短編は正直記号性みたいなのを強く感じるのだけど、この二篇は不穏で生き生きとしていた。「東京の忍術使い」はとても変で、とくにオチが変。小島信夫の滑稽味はいつも唐突だ、と思う。2022/05/27