出版社内容情報
2次方程式には古代から知られる解の公式があり、3次方程式、4次方程式にもそれぞれカルダーノの公式、フェラーリの公式と呼ばれる16世紀に発見された解の公式がある。“5次以上の方程式にも同様の代数的な解の公式は存在するか”という問題は、長らく未解決であったが、19世紀前半、N・アーベル、P・ルフィニによって否定的に解決された。E・ガロア(?variste Galois、1811~1832年)は、代数方程式の可解性、つまりこのような解の公式が存在するかどうかは解の対称性を表す「群」の性質によって判定できることを示し、その応用としてアーベル=ルフィニの定理の画期的な再証明を与えたが、若くして悲劇的な死を遂げた。彼の理論は、その先駆性ゆえにしばらく受け入れられなかったが、後に整理された群の理論、新しく整備された「体の代数拡大」の理論とともにまとめられて、今日では「ガロア理論」として広く利用されている。これは、例えば、代数的整数論、類体論、数論幾何学などの数論の諸理論の基礎として位置付けられており、現代数学の多くの理論のひな形をなす重要な理論である。本書では、「代数方程式の可解性」、「アーベル=ルフィニの定理の証明」を目標に、現代数学の立場からガロア理論の解説を行う。また、「ギリシアの3大作図問題」、近年の話題からその幾何学的応用についても触れ、特に最近筆者によって解決された平面上の「角の有理二等分問題」についても簡単な解説を述べる。本書は、類書の中では珍しい下記の4点の特長をあわせもつ。①初学者向けの構成:文系の高校数学程度の知識で読み始められるように、集合論の次の出発点を、多くの専門書で前提知識とされる抽象度の高い線形代数学や群論ではなく、より具体的なイメージをもちやすい環論とした。また、過度な抽象化はできるだけ避けて、段階的な解説、直接的な定理の証明を心掛けた。具体的なイメージをもって読み進められるように、例の解説にも多くの紙面を割き、例に対応した演習問題を通して理解の定着がはかれるようにした。演習問題の題材には、可能な限り理論的に含蓄があるものを選んだ。②自己完結性(Self-Containedであること):線形代数学や群論などの予備知識を必要とせずに、1冊で代数学の基礎からガロア理論の本論までを学べるように書いた。難解な部分も含めて、重要な証明の省略(啓蒙書では多い)は原則行わない。③ミニマルであること:できるだけ寄り道をせず、ガロア理論の理解に必要な概念だけを習得しながら本論にたどり着けるような構成とした。多くの教科書で取り上げられるような体論の進んだ話題は割愛し、代わりに各項目の解説を充実させることで、理論の本質がよく見通せるようにした。周辺の諸概念・定理には深入りしないため、短期間で理論の本質が簡潔に理解できる。④参考書スタイルの解説:2色刷りの行間を埋める解説、要点のまとめ、諸概念・定理ごとの演習問題を通して、理解しすいように各所で工夫を凝らした。本書がガロア理論を理解するための一助となり、深淵で美しい数学の世界を知るきっかけとなれば幸いである。
【目次】