内容説明
あの夜、この世のすべてを見渡した。千夏/直哉は世界の縁に立ち、数え切れないほどの光を見た―橋本千夏は25才の冬にして、生まれて初めての失恋を経験した。沢木直哉は17才の冬にして、たったひとりの伯父を亡くした。千夏は小説家に憧れてライターになったものの、生活するのを言い訳にしてただの1度も本当に書きたいものを人前に出したことがない。直哉は幼いときに母に自殺されて伯父に引き取られ、それからいつのまにかその家に引きこもって暮らしていた。2人はそれぞれに全く異なった種類の痛みや弱さを抱えていた。巨大な時計から落ちた噛み合わない歯車のように、暮らしているこの世界とのひずみを感じている。そんな2人がふとしたことから出会い、しばらくのあいだ一緒に暮らすことになる。そして1枚の鏡の前に立つように、お互いの中に自分自身を見る。偶然に出会った2人が過ごした同じ時間を、別々の視点から見た1つの物語。