内容説明
本書は様々な視点から異邦人化と距離のもつ認識的かつ道徳的、建設的かつ破壊的な潜在能力を探っている。なぜ異邦人(未開人、農民、動物)の視線に社会の虚偽をあばく能力を持たせていたのだろうか。なぜわれわれは「眺望」「視点」といった視覚的比喩を多用するのか。大金を積まれたら未知の中国人官僚を殺すだろうか。遠くから近くから、世界を見つめ直す厳しい九つの視線。
目次
第1章 異化―ある文学的手法の起源
第2章 神話―距離と虚偽
第3章 表象―言葉、観念、事物
第4章 「この人を見よ」―キリスト教信仰における像の聖書的起源について
第5章 偶像と図像―オリゲネスの一節とその運命
第6章 様式―包含と排除
第7章 距離と眺望―二つの隠喩
第8章 中国人官吏を殺すこと―距離の道徳的意味
第9章 ウォイティラ教皇の言い違い
著者等紹介
ギンズブルグ,カルロ[ギンズブルグ,カルロ][Ginzburg,Carlo]
1939年トリーノに生まれる。カリフォルニア大学(UCLA)教授
竹山博英[タケヤマヒロヒデ]
1948年東京で生まれる。立命館大学教授
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感想・レビュー
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syaori
63
9つの論文を収録。様式は演説者の数だけあるとするキケロを起点とする様式に関する論考では、それがアウグスティヌスやハイネなどを通過して、修辞学から神学、歴史へと領域を拡大しながら近代の人種主義まで反響を響かせていることが示されます。そんな省察たちは緩やかに繋がっていて、そこから露わになるのは古代ギリシアやユダヤの「やり方」に対するキリスト教の「親近性と敵意」や主観的視点と客観的事実との緊張関係。またそれらのもたらす豊穣性や時間的・空間的に広がった現代の我々が直面している危険も示され、知的冒険を楽しみました。2024/04/02
傘緑
30
「あるものが完全に美しいとき、人がそこに注意を向けると、すぐさま、それが唯一の美となる…自分が見つめる者は美しく、他は美しくない…どの宗教もそれのみが真実である(S・ヴェーユ)」「古代ギリシャ人たちが芸術作品をそれぞれが存亡を賭して挑み合うアゴン(闘争)の世界に置いた…個々の作品はひとしくその全体を目指さざるを得ない…その独自性において美の独占を主張する作品にとって、美の分割を認めることは一種の自殺行為なのである…他のすべての作品の死滅を願っているという意味ではどの作品もこのような没落を目指している(→)2017/08/16
roughfractus02
5
パースがアブダクションの同義語として用いたアリストテレスの遡行推論(レトロダクション)を歴史研究の方法として駆使する著者は、異邦人の立場で日常に距離を取る異化の章を本書の冒頭に置いた。思考の習慣を強化する演繹や帰納の推論と異なり、遡行推論は思考自身を飛躍させ、その非定形な土台を探求する。ここから本書は、神話、表象、偶像、様式、眺望の概念を検討し、さらに中国人官吏を殺すことや教皇の言い間違いは疑問に思わないような思考習慣から距離を取り、その深部で衝突や適合を繰り返している、多重で非線形的な思考の運動に迫る。2020/04/14
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