内容説明
旧ソ連で働くベトナム女性ハンが、モスクワ行き列車の中で回想する故国での哀切の物語。ベトナム50年代の土地改革は、ハンの身内に深い傷あとをのこした。当時、改革隊長の母方の叔父は、父方一家を地主として糾弾。父、祖母、伯母は告発集会でいわれのない辱しめをうけた…。不運な家庭に生まれ育った少女ハンと、悲憤を糧に富を築く伯母、共産党幹部の叔父など、時代の波に巻きこまれ翻弄されていく親族間の葛藤と人生を描く。歴史的タブーとされた土地改革を正面から見すえ、生活感あふれるハノイ郊外、伝統風俗のベトナム農村、広大なロシアの情景などを巧みにまじえて綴る社会主義国ベトナムの問題小説。日本図書館協会選定。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takao
3
ふむ2024/04/13
暇人
0
以前ヴェトナムを旅行した時に驚いたことがある。地図を読める現地人がいなかったことだ。みんないい人だったが…。本職を読んで理由が何となく分かる。地図が読める人はスパイなのだ。 閉鎖的な社会主義国家は監視社会でもある。密告が当たり前だ。彼らが当時考えていた正義を守るためには必要なことだからだ。 末端の大衆まで行き渡り、社会的な矛盾は最高潮に達する。社会主義国家とはいえお金は必要だ。ロシア語ができる人は祖国から離れていく。みんな不幸なファシズム体制それがちょっと前のヴェトナムの本当の姿だった。2017/01/07
MIKIKO
0
主人公ハンは1980年代のモスクワで働く国外派遣労働者(国の債務弁済のためベトナムから旧ソ連・東欧に労働力として輸出された)。ハンの両親は50年代の土地改革で残酷に引き裂かれ、その後も親族内には禍根が残る。物語は、ハンがベトナム時代を回想しながら展開する。今ベトナム人技能実習生が日本で奴隷のように扱われている。何世代にもわたるベトナム人の苦悩に胸がしめつけられる。苦労続きのハンが、豊かそうな同年代の日本人旅行者を車窓から見て「彼らのどこが私達と違うのだろう」とつぶやくシーンは、何度読んでも泣けてくる。2021/12/03