内容説明
日本の1970年代を代表する住宅建築が、97年、姿を消した。この建築を設計者とともにつくりあげた母とそこに育った娘たちが20年の日々とその帰趨を、それぞれの視点から語った。現代住宅とは何か。この問題意識の最深層を潜り抜けた、住み手からのここまで率直な報告はかつてなかった。今後もないだろう。設計者である伊東豊雄は、この「中野本町の家」成立までの経過と、出現当時の時代状況を、未発表のエスキースを含む資料と併せて報告している。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びぃごろ
11
復刊と新聞で紹介され、初めてこの家のことを知る。中野区本町に1976年に建築された馬蹄形現代住宅。若くして夫を亡くす後藤暢子が、三田の高層APから出たいと、弟の建築家伊東豊雄と話すうち、実家隣の空き地が売りに出されトントンと話が進む。どんな家がよいかと聞かれ「L字型の家。屋根や壁面の裂け目のような窓から鮮烈に差し込む光がよい」と答えたそう。小学生の娘二人と住んで20年。皆が独立し取り壊すことになった経緯が3人のインタビューで綴られる。美術館になるような家だ。清春芸術村の「光の美術館」の空間を思い出した。2024/09/25
2n2n
2
主役は、伊東豊雄の姉とその二人の娘。伊東は「中野本町の家」と呼ばれる姉の自宅を設計した。その頃姉は夫を亡くしており、住宅の設計もその頃の姉の内面の喪失感が反映されたデザインとなった。しかし20年後、姉の心境はあの頃とは異なるものとなり、この自邸にはこれ以上住めないと感じるようになる。一方、二人の娘はこの奇抜な家のデザインには子供の頃から複雑な思いを寄せていたという。結局、竣工から20年後くらいに家は解体される。本書は、この「中野本町の家」の住み手だった三人の母娘が、この家について率直な気持ちを語ったもの2020/05/25
AtoA
1
ひとつの建築が施主の想いから生まれ、そしてそして想いの変化によって消えていく。展覧会でのスタッフが家をつくるのがこわくなったという言葉とこの本の読後感が比例していくのがわかった。とてもいい読書体験だったのを今も覚えてる。
め
1
住宅の死をめぐって2012/06/08
arkibito
1
家が死んでゆく。思い出が記憶が空虚な場所へと吸い込まれてゆく。その過程をそこに住み続けたある家族と設計者が冷静な目で見つめる。生きる者の住まう場でありながら、建築であろうとする矛盾。この2つのバランスが崩れ去ったとき、中野本町の家は消滅する運命だったのだ。2001/04/14
-
- 和書
- 万葉表記・文体論叢