内容説明
熊本の路地裏にいつもの声、はじめての顔。詩人、作家、絵描き、写真家、唄うたい…珈琲をのみ、本をえらび、同じ月を見上げる。まちの余白に33篇の物語。
目次
1 まちの余白(路地裏で;とんちさん ほか)
2 雨降りに本屋で(手紙はいいよ;常連さん ほか)
3 同じ月を見上げて(巡り合わせ;バス停 ほか)
4 切手のない便り(小さきものたち;きりん ほか)
著者等紹介
田尻久子[タジリヒサコ]
1969年、熊本市生まれ。「橙書店オレンジ」店主。会社勤めを経て2001年、熊本市内に雑貨と喫茶の店「orange」を開業。2008年、隣の空き店舗を借り増しして「橙書店」を開く。2016年より渡辺京二の呼びかけで創刊した文芸誌『アルテリ』(年二回刊)の発行・責任編集をつとめる。同年熊本地震被災後、近くに移転し再開。2017年、第三九回サントリー地域文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
88
熊本にあるセレクト書店で雑貨も売り喫茶もできる店。先日お店を訪れて、この本に店主の田尻久子さんにサインしてもらった。初めてなのに本の話が尽きず、この本に出てくるような常連さんとも言葉を交わした。谷川俊太郎や村上春樹、石牟礼道子がこの本屋さんを訪れたり、店主と会ったりしているのは、店主の人柄と弱い立場の人の本を扱う姿勢にあるのだろう。橙書店で購入したCDを聴きながら、カウンターで話を聞くように、あの空間で飲んだコーヒーを思い浮かべながら読んだ。お薦めされたたくさんの本を読み終えたら、また行こうと思う。2021/04/10
どんぐり
83
著者のエッセイを読むのは、これで3冊目。詩人の伊藤比呂美を隊長とするひみつけっしゃ「熊本文学隊」の事務局、それに文芸誌『アルテリ』編集室の事務局になっている熊本の橙書店。最初は喫茶店だったのが「やっているうちにプロになるから」と励まされ、本屋が始まった。そこにいろんな人が店にやって来る。熊本と縁の深い作家や研究者、阿蘇の野焼きを撮る写真家の川内倫子、さらには村上春樹も訪れる。時に常連さんからの四季折々のもらい物が店を飾り、旅先で見つけたという本が届けられたりして、人と人とのつながりや交流が記されている。→2023/01/14
trazom
70
熊本で小さな書店(兼喫茶店・ギャラリー)を営む田尻久子さんのエッセイ。巻末に掲載されている「本書に登場する本」の27冊のリストを見て、この本を読もうと決めた:石牟礼道子、伊藤比呂美、宮崎かづゑ、須賀敦子、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ…。何気ない出来事を、素人っぽさの残る少しぎこちない文章で綴るエッセイだが、それだけに、飾らない素朴な優しさが、まことの誠実さとして伝わってくる。川内倫子さんが「相変わらず弱者の本ばかりおいてるね、そこがぶれないよね」と評した著者の生き様が、心に沁みる。2020/06/12
国士舘大学そっくりおじさん・寺
66
近頃坂口恭平の本を読むようになって、田尻久子を知った。この本が田尻さんの3冊ある単著で一番古いものかと勘違いして読み始めたが、最新のものだった。まあいいか。熊本で喫茶&本屋「橙(だいだい)書店」をやっている田尻さんの、お客さんを中心としたエッセイだが、すごい。坂口恭平はもちろん、石牟礼道子、谷川俊太郎、渡辺京二、吉本由美などが登場。おまけに村上春樹率いる東京するめクラブも登場し、春樹さんは店で朗読会を行う。しかし、こうした有名人の合間に出てくる一般人の話が胸を打つ。弱者の為の本を置く書店なのである。好著。2020/11/15
konoha
58
熊本の人々の日常に溶け込む橙書店の佇まいが好き。川内倫子、村上春樹、行定勲など有名な作家とスタッフやお客さんのエピソードが並列で語られているのが良い。前者の方が普通で後者が個性的とも感じる。橙書店にふいに訪れる出会いと別れ、生と死。田尻さんがその時の感情を素直に受け止める方なので読みやすい。二階の小部屋で現代美術の展示をする「またたく」、ハンセン病患者との出会いと別れを書く「握手」が印象的。こんなふうに皆の拠り所になる書店とそれが存在する街があるのが素敵だと思う。2024/02/20