内容説明
自由は不幸だ。抑圧された人間にとって、残された自己証明の唯一の道とは、抑圧者を殺害する以外にはないのか?アフリカの植民地を背景に意図された、暴力と血の匂いにみちた破滅の物語。2007年ノーベル文学賞を受賞したドリス・レッシングのデビュー作(1950年発表)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
209
親との関係に疲れ都会に自由を求めたメアリが、貧しい農夫と結婚し、黒人下男に殺されるまでの話。アフリカ人に気を遣う夫に比べ、メアリは《黒い動物が訴える権利を持つ》ことに怒り鞭を振るう。夫婦の隔絶、ローデシア白人社会の蔑みを伴う連帯など、重苦しい。二人の希望はばらばらになり、厳しい自然の前で努力も潰える。メアリの憎悪は、鞭を受けても平然と仕える男への恐れとなり、辞めたいという男を引き止めた際に自制を失って泣き崩れる。男の温かく大きな手、人間らしい情にメアリは怒り、無力感に囚われ、やがて彼女の虚無が露わになる。2021/12/12
ケイ
149
こう言うのは、好きだな。淡々とした文章で書かれるどうしようもないこと。起こってしまった悲劇。募る焦燥感、ぶつけるストレス、侮蔑される事への憤怒、抑制のきかない怒り。特にラストの汗とため息の混じったような諦めの中にある解放感に胸を打たれた。少なくとも、彼を悩ませていた原因は断たれたのだから。作者は5歳で両親とともに渡ったアフリカに対し、どこか客観的な視線で見続けていたのではないだろうか。私には、悲劇なのにどこか清々しく感じられる作品だった。2017/02/27
まふ
118
ノーベル賞受賞者の作者のローデシアを舞台とした処女作。メアリは極貧白人のターナーと結婚し、生活が向上しないまま殺され、それを周囲は騒ぎたてない…。白人と黒人、英国人とアフリカーナー(オランダ系白人)、旧入植者と新入植者等の諸人間関係等の中でのメアリのこれまでの異常な生活が描写され、状況が次第に分かって来る。が、こうした「いびつ」を生起したそもそもの原因たるヨーロッパ列強の数百年にわたる植民地制度の罪過は今後も消えない傷痕として残るわけであり、「地球全体の罪」のような気がしてきた。G469/1000。2024/03/21
扉のこちら側
92
2017年44冊め。【264/G1000】白人女性が使用人の黒人男性に殺害されたところから物語が始まる。プライドの高い白人女性が貧しいアフリカの農場に嫁ぎ、その地の生活で精神を病んでいき、悲劇的な死を迎えることになる。舞台はジンバブエで、理不尽なことへ声を上げても掻き消えてしまい、夫やアフリカでの生活への不満が黒人への憎しみとして積もっていってしまった。牧歌的なタイトルとは裏腹に、なんにもない荒れ地に吹き抜ける風の音を思わずにいられなかった。2017/01/15
NAO
61
南アフリカ生まれの貧しいイギリス人夫婦を両親に持つメアリが神強迫観念にとらわれて結婚したことから起きた悲劇。この作品では、アフリカにおける西欧文明の欠陥を、その白人文明の落伍者を通じて浮かび上がらせていて、作者は、アフリカ人の犠牲のもとに成り立つ植民地支配は必然的に滅亡しなければならないと考えている。ならば、最も邪悪な者から滅びさせそうなものだが、まず最初に滅びるのが自分たちが属する文明に素直についていけない落伍者というのが何ともいえない皮肉だ。2022/05/20