内容説明
失われた夫婦の愛は二度と甦らないのか。北ドイツの海辺の館。心通わぬ妻から逃れコペンハーゲンの宮廷へ。伯爵がもとめたつかのまの恋…。没後百年、十九世紀独文学の高峰フォンターネの幻の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kero385
22
「北の海辺」は、十九世紀後半に活躍したドイツの作家テオドール・フォンターネの長篇小説。原題は“Unwiederbringlich“「取り返しがつかない」という意味。敬虔な信仰心を生きる糧としてきた、美しく聡明な伯爵夫人クリスティーネ。そんな彼女を愛してはいるが、その宗教的敬虔さ、教養の深さに内心コンプレックスを抱いている夫ヘルムート・ホルク伯爵。ヘルムートの単身赴任をきっかけに十七年間なんとかやってきた夫婦関係が、お互いの心に修復できない疑念が芽生え壊れるまでの三か月間とその後の二年間を描いた小説。2025/09/05
ばん
4
写実主義文学のフォンターネ、肌に触れるような読書体験だった。貴族階級の中年夫婦の恋愛を描いたものだが、そこには日常と現実を感じられ『親和力』と比較したくなった。描写は豊かで味わい深く、風通しのよい作品であった。ホルクの愚かさと、クリスティーネの苛烈さは、昼と夜が森と砂漠が、酒宴と会議が同時に存在するようだが、それでもきっと愛はもっと中立的に存在しえたはずだった、しかしきっと忘却と記憶だけはどうしても、無理であった。それが悲しくて、華やかな舘や風景が何を踏みつけているのか痛く知る事になった。2012/09/06




