内容説明
歴戦の批評家・花田清輝vs若き批判者・吉本隆明―1956年から60年にかけて、この2人のあいだで激しい論争が展開された。文学者の戦争責任論に端を発し、政治と芸術運動をめぐってなされたその応酬は、最後には吉本の勝利を強く引象づけるような、花田の撤退とともに終結した。この論争はどんなものだったのか?花田はなぜ負けたのか?吉本は本当に勝ったのか?この伝説的論争の現代的な意味をさぐり、ラストシーンに隠されていた秘密を発見する。
目次
1 誰が勝者か
2 戦争責任論の提起
3 日本共産党の戦後責任
4 吉本理論の功罪
5 はじめての鞘当て
6 モラリスト批判
7 近代主義者(!?)吉本隆明
8 挑発者(!?)花田清輝
9 論争の外野席―反日共の学生戦線
10 吉本隆明の最初の反撃
11 不思議な打撃の効果
12 冬枯れの軽井沢
13 綱領論争を知らない花田清輝(!?)
14 吉本隆明「転向論」をめぐって
15 裁かれたファシスト花田清輝(!?)
16 「意地悪じいさん」花田清輝の演技力
17 吉本隆明の「自立」への道
18 吉本隆明の知的退廃
19 ユートピアとしての共同体
補論 転形期の批評家 花田清輝
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mstr_kk
3
まるで小説のようにエンターテイニングだった。論争の背景も勉強になった。吉本、花田の著作についての分かりやすい解説でもある。2013/07/18
受動的革命
2
「サドへ、サドへと」を引き、「相手をたえずよろこばせながら、いつの間にか、相手を破滅させ」る「完全犯罪」を花田が行ったとする説は腑に落ちるのだが、こと花田に関しては奇妙で多義的なモチーフが多いので一概にこういう解釈が妥当するかは疑問。旧来の市民的個人としての芸術家観(吉本)に、文化の機械化・大衆化が進んだ先進社会における、映画製作などの集団的創作主体(花田)を対置する見取り図は示唆深いし、ベンヤミンにつながる話でもある。後半部分での吉本への罵倒は吹き出しそうになった。文壇史を知るうえでは有益な本。2024/11/06
yoyogi kazuo
0
明らかに花田寄りに立って書かれたものだが、吉本の仕事についても評価すべき点は評価している。 著者が引用する小川徹『花田清輝の生涯』によれば、花田は吉本との論争が佳境を迎えた1958年には、舞芸座の若い女優Mと一世一代の恋愛事件を起こして、二十数年来の伴侶であるトキ夫人との間に緊張した関係をもたらし、そのあおりで一時家出をしていたということである。 花田清輝が「偽装した転向ファシスト」かどうかはともかくとして、吉本隆明と勝負できるような重量級の人物ではなかったことだけは確かだろうと思った。2020/02/01
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