内容説明
『壜の中の手記』が好評を博した異色作家カーシュの傑作集第二弾。十六世紀のフランスに生まれ、四百年もの間、戦場から戦場へと渡り歩いてきた不死身の男、神の怒りによって滅んだ古代都市アンナンの廃墟に巣くう不気味な生物、ハンガリーの荒野にそびえ立つ「乞食の石」の秘密、魔法の魚のお告げとアーサー王の埋もれた宝、といった奇想天外な物語、不気味な寓話の数々に、稀代の天才詐欺師にして大泥棒(あるいは世界一の大ほら吹き)カームジンが披露する宝石泥棒や贋作詐欺の話など、思わず「そんなバカな!」と叫びたくなる途方もないお話ばかり、全13篇を収録。物語の力を信じる人々に捧げる最高の贈り物。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
57
「東欧、ユダヤの情感漂う」途方もない話が13篇。異色のユダヤ人作家カーシュ。日本じゃ古くは日本霊異記があり室町期にも多い伝承民話では、当作品との世界観温度がかけ離れていて久しぶりに喝采だ。ロンドン郊外に生まれ夢をかなえるべく職歴を積み重ね従軍記者も。惜しむらくは当作、日本語が硬質で愉しむ位置には至らなかったが筆者の残り香?は存分に味わえた。短編で怪躍する「私」はカーシュの分身と思え笑う。筆の滑りも滑らかな「カームジン」シリーズは当時の人気をさらったらしく、当世の大物にもファンがいたらしい。実人生のカーシュ2025/10/31
kana
45
イギリス出身の作家による奇想短篇集。実は10年来の積読を崩して読む。日本で言う妖怪のように土着の人ならざる存在がすっと忍び寄る作品が多く、その語りは落語のように滑らかで趣深い。イギリスが島国だからなのかこうした作品の精神性に昔から私は惹き寄せられるような魅力を感じて、時々その世界に浸りたくなるのです。『クックー伍長の身の上話』のドラマチックな半生も『ミス・トリヴァーのおもてなし』のぞっとする一夜も『カームジン』シリーズの洒落の効いた悪事の顛末も、一筋縄でいかないシニカルな展開が素敵でした。2020/04/18
藤月はな(灯れ松明の火)
29
「乞食の石」は隠されていた価値を知ったがゆえに元々の価値を失ってしまうという宗教や科学の台頭での社会の変化でもいえそうな皮肉を描いているように感じました。グリム童話を基にしたような「魚のお告げ」や天性のほら吹きか、詐欺師だけど瓢箪から駒になったり、笑える失敗も持つ人間味を持つカームジン・シリーズも中々、いい味を出しています。「ミス・トリヴァーのおもてなし」は怖いです。伏線の回収が見事な「一匙の偶然」には拍手喝采です^^2013/04/24
ニミッツクラス
28
03年(平成15年)の税抜1800円の単行本初版で晶文社ミステリの一冊。前年刊行の「壜の中の手記」に続くカーシュ短編集第二弾だが200円安い。13編のうち、詐欺師カームジン物が4編ある。小切手詐欺、宝石窃盗、幽霊と儲け話、ゴーギャン贋作大作戦がFブラウン的な筆致で語られる。贋作案件はプレイボーイ誌に載せただけあってスマートさと大胆さの多段構成に唸る。幽霊案件は普通の短編なら幽霊奇譚と幽霊商売の2つに分割可能だ…敢えて一つに纏めてくれたのが嬉しい。カームジン物は08年に角川からコンプ版が出たよ。★★★★☆☆2025/06/24
きゅー
16
独特のオカルトチックな雰囲気が漂う短篇集。彼の作品では細かいディテールが綿密に書き込まれることが多い。例えば「魚のお告げ」ではウェールズ地方の歴史が、「クック-伍長の身の上話」でも過去数百年の戦争が体験談として語られる。そういった微細な事実の積み重ねの上に、大きなほら話がデンと乗っかるので、ある種の真実味が感じられてそれが良い味になっている。ほら話としてはカームジンのシリーズはかなり面白い。これも荒唐無稽ながらどこか現実的なところもあり、そのバランスの良さが際立っていた。2013/02/12




