内容説明
父母が逃れえなかったナチの手を逃れて、イギリスに渡った二人の少年。堅い絆で結ばれた彼らは、異国での辛苦を乗りこえ、共同事業の成功と、似合いの伴侶、美しい子どもたちに恵まれる。だが、人生の秋を迎えてもなお、一切と別れねばならなかった過去が、身を切るような孤独となって二人を苛む。ひとは、過去からは逃れられないのか―。刊行されるや、たちまち最高傑作と絶賛を博した、ブルックナーの新境地を示す作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
愛玉子
9
ナチスから逃れるため、ドイツからイギリスへ渡った二人の少年。成長してビジネスパートナーとなり、事業を成功させ家庭に恵まれてもなお、一人は過去を思い返すことを止められず、一人は今の幸せを常に自分に言い聞かせることで、逆に過去に囚われている。住んでいた時間で言えばイギリスの方がよほど長いのに、彼らは未だ根を下ろしかねているような印象を受ける。陽気な夫婦に地味な娘が産まれ、陰気な夫婦が派手な息子を授かって、それぞれ苦労するくだりでは思わず苦笑。疎外感を背景としながらも、読み終わると意外にあたたかい。2010/07/17
utataneneko
6
少年時代にナチの手から逃れて英国にやってきた、ハートマンとフィビッヒ。事業が成功し、それぞれ伴侶を得て子供もでき、幸せな家庭を築く。大筋ではそれだけの話なのに、人物たちの心理描写が精緻で、さすがブルックナーの小説だと思わされる。楽天的で快楽主義者のハートマン、少年時代の負の記憶に捉われ常に悲観的なフィビッヒと、対照的な性格。生まれてきた子供はそれぞれ親とは全く異なる性格で、振り回され心配もつきない。そんなどこにでもありそうな家庭の問題に、過去の暗い記憶が影を差し、複雑で読み応えある小説となっていた。2013/05/04
きりぱい
4
最初に読んだ作品で、何となくこの著者の描く主人公は女性だと思い込んでしまっていたので、男性二人が軸だったことに意外な思い。ナチから逃れてイギリスに渡った二人の少年が出会い、老年となってもかけがえのない親友であり続ける。それぞれの抱える孤独や家族内の葛藤が物語に深みを与え、時折影もさすが、誰もがそこそこの好人物なので読み心地は穏やか。終わってみればイヴェットが魅力的だった。2010/05/24
蒼い月
3
師走のバタバタとした時期ということもあってか、序盤は「秋のホテル」より入りづらかったのだが、次第にブルックナーらしい鋭い心理描写に惹き込まれて行った。正反対な相手に少し振り回されながらも羨望を抱いたり、自分と似たタイプの、似合いのはずの配偶者なのに、ふともっと違う人生を求めてしまったり。忍び寄る老いの翳り。思い通りにはならないけれど何よりも愛しい子供への愛情。過去は取り戻せなかったかもしれないが、かけがえのない友人と家族を得た主人公達に、しみじみと良かったと思ったのでした。2011/12/27
Shinya Fukuda
1
この小説に筋はない。日常生活を淡々と描いている。ナチスの迫害を逃れてドイツからやってきた少年二人がやがて家庭を持ち細やか幸福を掴む話。どんな不幸な体験だったかは殆ど書かれていない。陽と陰の対照的な二人の男に陽気で派手な女と慎み深く小心な女がくっついている。そして其々の子供。全員キャラが立っている、解説にこの四人の人物のうち誰に惹かれるかとあった。こういう読み方も面白いと思う。イヴェットがブルックナーのこれまでの作品に登場しなかった人物で新境地を拓くものという見方があるようだ。確かに魅力的な女性だと思う。2023/10/08
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