感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
愛玉子
9
愛を求める女の孤独と不安、揺れ動く内面を繊細な筆致で描き出している…などと粗筋だけを書くと、安いメロドラマだと勘違いされるかもしれないがとんでもない。美しい風景や細やかな人間観察、抑制の効いた硬質で静謐な文章は、読めば読むほど引き込まれていく。水のようにさらりとしていながら忘れがたい滋味を残す作品だった。日本の作家でこういう作品を書く方、いないものかしら。2010/06/17
algon
8
大衆作家の独身女性イーディスはある事をやらかしてほとぼりが冷めるまで住まいを追われシーズンオフの静かなホテルにやってきた。そこで出会うわずかな人々に癒されたり疎ましく思ったりそれなりに心動かされる日々が続く。そのうちに実業家ネヴィルに求婚される…。作家という設定で相当な部分著者を投影していると思う。脱世俗的な感覚と凡庸な俗っぽいところを交差させながらとりとめのない悩みの中にいる状態を透明というか清澄な文体で表していて硬質な印象は確かに引き付けるものがあった。潔いラストで良かったと。84年度ブッカー賞作品。2023/11/01
きりぱい
8
そろそろシーズンオフに入ろうかというスイスのホテルで過ごすことになった一人のイギリス人女性作家。ヴァージニア・ウルフ似というのは関係ないとしても、何となく流れまでも似ているような気がして読み通せるかなと思ったのだけど、意外にもすんなり読め、しかもよかった。何がいいかといえば大して何も起らないのだけれど、世間慣れしていないように見えて実は見かけと違い、周囲の人々をドライな目で観察しているところや、著者自身の孤独を映しているらしい主人公の心象など、穏やか~な読み心地に味わいがあって・・。他作品も読んでみたい。2010/05/08
かぜふけば
6
理知的で緻密で美しい文章がどのページをひらいても拡がっている。読むことに引き込まれるような巧みな描写。味わい深く読みました。満たされぬ思いを抱えて生きる主人公の最後の選択は、自分自身を守ることであり、矜持でもあると思う。2018/08/20
tona
5
ヴァージニア・ウルフ似の作家である主人公曰わく、人が好んで読むのは『兎と亀』ような話であって、その物語は必ず亀が勝利をおさめる。なぜなら、その物語を読む人間は大抵亀のような人物であり、現実に忙しい兎は本など読まないためである。彼女の作品は読者が望むように必ず亀の勝利で終わり、彼女自身も私生活では亀のままである。一つの季節の終わり、すべてが灰色に移ろいゆく中、浮かび上がる女の人生の孤独と不安を描いた一冊。2013/02/17
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