内容説明
未知の世界をもとめて、若者ウォルターは故郷ラングトンを後にした。旅立ちの前に波止場でふと目にした、美しい貴婦人と乙女と小人―謎の三人連れの幻が心に焼きついて離れない。やがてウォルターは妖しい糸にたぐりよせられるように、「地の裂け目」から不気味な森に踏みこんでゆく。騎士物語の冒険と栄光、妖精譚の魅惑と神秘をみごとに結びつけた、ファンタジー文学の古典的名作をモリス研究の第一人者の翻訳でおくる。
著者等紹介
モリス,ウィリアム[モリス,ウィリアム][Morris,William]
1834年‐1896年。イギリス・ヴィクトリア朝の詩人。装飾芸術家。社会主義運動家。ケルムスコット・プレスの創始者。民衆文化に基本を置く総合芸術としての装飾という考えをつらぬき、その実践を運動として展開した
小野二郎[オノジロウ]
1929年、東京生まれ。東京大学教養学部イギリス科卒業。編集者を経て、明治大学文学部教授をつとめた。1982年没
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感想・レビュー
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コットン
69
著者のウィリアム・モリスは室内装飾デザイナーとして有名で特に壁紙などは今も人気がある。そのモリスの60歳の時のファンタジー作品で頁をめくるとケルムスコットプレス版の口絵があるのが良い。ケルムスコットプレスはモリスの印刷工房。本作は優しくさらっと読めるファンタジーなので小中学生におすすめです。2023/12/14
壱萬参仟縁
7
森無くして評者は健康を回復できないとつくづく思える。1894年初出。高級文化と民衆文化。「不潔で貪欲、それに酷薄な人たち」(180頁)。人間の醜悪。「私よりも愚かな人々によって、いやな仕事に無理につかされ、私よりも勇気に欠ける人々によって、打ち叩かれました」(同頁)。こうした酷い目に遭う人生に同情してしまう。侍女の物語には切ない人生物語を伺い知ることができる。2013/04/30
白義
7
デザイナーとしてだけではなく近代ファンタジーの祖としても知られるウィリアム・モリスが描いた代表的な散文ロマンス。現実から異世界へ赴く主人公の旅立ちの動機が悪妻の不実であるというのが妙に現実感を感じさせる。そういう点はファンタジー=逃避という手垢のつきまくった表現の、まさに範例だが異世界の木漏れ日の煌めき、そよ風の息吹を感じさせる端正な文章でまさに中世ロマンスの現代版を思わせる王道なストーリーが展開され、牧歌的な懐かしさを感じる。ファンタジストとしてもなお、かわりなくモリスは偉大である2013/03/16
月華
5
図書館 ファンタジー。雰囲気は異世界感が満載でした。内容はあっさりした印象でした。2017/12/17
堆朱椿
5
装飾デザインのウィリアム・モリスによる小説。ファンタジーの元祖…らしい。確かに、幻想小説というよりは冒険ファンタジーだと思う。筋がきっちりしているので読みやすいが、なんだか物足りない。主人公に感情移入しにくいせいかも。装丁の綺麗な本です。2014/10/10