出版社内容情報
東京に残るリカバリー空間
その歴史といまを静かに熱く描くノンフィクション
日雇い労働者の街「山谷」。訪問看護師として働きながらこの街の「生と死」を見つめつづけてきた著者による同時代の記録。移り変わる街の歴史とありのままの現在、人々の闘いと願いが鮮やかに描かれる。写真約120点収録。
大阪・釜ヶ崎、横浜・寿町と並び、「日本の三大寄せ場」の一つであった「山谷」。住所表示で言えば、東京都台東区清川・日本堤・橋場と荒川区南千住にまたがるエリアを指すが、現在、「山谷」という町名は地図を探しても見当たらない。江戸時代からあった古い町名は、1962年に施行された住所表示法によって改正され、先の東京オリンピック直後、1966年に「山谷」の名は消えた。
かつて山谷には、全国から仕事を求める日雇い労働者が集まり、ドヤ(簡易宿所)街が形成された。建設業を中心に、日本経済を支えてきたわけである。同時に、世間からの差別や偏見が渦巻くこの街では、労働者による暴動が頻発した。言い換えるなら、圧倒的なフラストレーションの発散場でもあった。しかし、そんな熱い時代は終焉を迎え、現在、はっきりと過去のものになりつつある。
ドヤは一気にマンションへと建て替えられ、ここ数年で風景が一変した。街は浄化され、「労働」から「福祉」の街となり、かつての活気は失われている。しかし、山谷という磁場は、現在も弱き者たちを引き寄せる。江戸の近郊エリアとして変遷と隆盛を繰り返し、その土地柄ゆえ、長きにわたり人々のセーフティーネットとしての機能を担ってきたからである。
本書では、歴史を辿りながら「山谷」という土地の宿命をふまえ、この街が舞台となった映画と二人の監督の死、男たちの街で呻吟した女性写真家、山谷で看取りを行う人びと、野宿者支援から仕事おこしに努める企業組合、山谷とともにある光照院住職の活動、そしてケアを担う人たちなどを取材。生きづらさや孤独感でつながるこの街で、訪問看護師として働く自身の「実録・山谷」であり、街をめぐる物語である。(おだ・しのぶ)
内容説明
長くセーフティーネットとして機能してきた日雇い労働者の街「山谷」。消えゆくドヤ街を前に、寄せ場の歴史をたどり、引き寄せられた者たちの記憶を掘り起こす。「生と死」を見つめるノンフィクション。
目次
第1章 山谷通史
第2章 映画『山谷―やられたらやりかえせ』
第3章 労働者の街で呻吟した報道写真家
第4章 ヤマの看取りと共同墓地
第5章 寄せ場・抵抗の流儀
第6章 「山谷」にひきよせられた人たち
著者等紹介
織田忍[オダシノブ]
1975年生まれ、千葉県出身。短大卒業後、出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。主に情報誌、フリーペーパーなどの編集・執筆をする傍ら、出産後に保育士資格取得。神奈川県相模原市の保育園に勤務。2011年、茨城県内の看護専門学校に入学。2014年より看護師として東京都立の療育センターなどを経て、現在は台東区にある「NPO法人訪問看護ステーション コスモス」の訪問看護師として、山谷エリアを中心に地域医療に従事している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。