出版社内容情報
三年を経過した被災地の地域産業の「現場」からは、いくつかの声が聞こえてくる。それに耳をすませると、復興の度合いや内容の違いがみえてくる。まず津波被災地と放射能被災地の違い、津波被災地の中でも岩手県と宮城県の差、そして、福島の放射能被災地の南北格差が明確になってきている。さらに、被災の周辺で取り残された地域もある。その置かれている状況の微妙な違いが、人びとやその支えとなるはずの地域産業に深い影を落としている。
津波被災地と放射能被災地に共通するのは、人口減少と高齢化の進展であろう。福島第一原発二〇キロ圏で警戒区域が解除され、日中の立ち入りと事業再開が可能になった浪江や南相馬の小高区などでは、「戻るか、戻らないか」という問いが現実的なものになり、幼い子どものいる家庭は「戻らない」ことを選択していく。その時、地域は人口の大幅減少に直面する。被災地に残る高齢者たちは「若者のいないまちは消える」と語る。
この点、仮設商店街に入居する商店やサービス業などの生活産業は辛い。これらは地域の人びとの「暮らしを支える産業」なのだが、入居期限は五年といわれ、すでに三年を経過した現在、次への見通しが立たない。事業者自身がすでに高齢化しており、後継者はいないというケースが少なくない。このような事情の場合、新規投資を行うことは現実的でない。多くの事業者は、現在の仮設店舗が朽ち果てるまで留まることを願っている。
人がいなければ事業は成り立たない。仕事がなければ定住は難しい。ここでいう「人」とは、魅力的な仕事の場を求める人であり、また、そこで暮らしていく人である。
いま、復旧・復興に向かう被災地の地域産業は、人びとが地域でいかに豊かに、そして安心・安全に暮らしていけるかという課題に応えることを求められている。シリーズ四冊目となる本書では、福島県を中心に、このような「所得、雇用、暮らし」を支える産業の「現場」に焦点を当てた。被災地の復旧・復興の過程は、人口減少、少子高齢化に向かう日本の「未来」、私たちの「未来」を指し示しているのである。(せき・みつひろ)
【著者紹介】
1948年生まれ。明星大学経済学部教授、一橋大学名誉教授。博士(経済学)。東日本各地の震災復興・産業再生にアドバイザーとして携わる。代表作『東日本大震災と地域産業復興 ?T~?V』『鹿児島地域産業の未来』のほか、『震災復興と地域産業 1~5』など編著書多数。
内容説明
被災後3年半の影。被災地間の格差。先のみえない放射能災害。人口減少・高齢化の深刻化。生活支援産業の困難。「3年半を経ての課題」を語る人びとの声に耳を澄ませ、仕事と暮らしの再建に向けた指針を探る。3.11後の東日本からの現場報告、第4弾!
目次
第1章 福島県浪江町/原子力災害地域で再開に向かう中小企業―二〇一一年三月一二日のままに残る(区域再編、除染、帰還の長い道のり;地域中小企業団体の避難の現状 ほか)
第2章 福島県南相馬市小高区/放射能災害と闘う地域産業―合併市旧町の中小企業の取り組み(南相馬の被災と復興;小高区中小機械金属工業の再生 ほか)
第3章 福島県いわき市/復興支援拠点の地域産業、中小企業―自らも被災し、新たな方向に向かう(被災からの復興と復興支援拠点の形成;水産関連産業の被災と復興 ほか)
第4章 岩手県陸前高田市/津波で流失したまちの地域産業の復活と創出―仮設のまち、新たな水産食品加工団地、多様な支援産業(流失したまちの新たな地域産業;仮設商店街に集う中小商店 ほか)
補論 被災地の産業復興をめぐるトピックス(茨城県日立市/愛知県とタイで工場生産―放射能風評からシラス加工を移設(小松水産)
福島県相馬市/南相馬市で全てを流し、山間部で再開―中小機械金属工業の一人親方(コウヨー精工) ほか)
著者等紹介
関満博[セキミツヒロ]
1948年、富山県小矢部市生まれ。1976年、成城大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。現在、明星大学経済学部教授、一橋大学名誉教授。博士(経済学)。岩手県東日本大震災津波からの復興に係わる専門委員、宮城県気仙沼市震災復興会議委員、福島県浪江町復興有識者会議委員、岩手県北上市「工業振興アドバイザー」、岩手県宮古市「産業創造アドバイザー」。1984年第9回中小企業研究奨励賞特賞。1994年第34回エコノミスト賞。1997年第19回サントリー学芸賞。1998年第14回太平洋正芳記念賞特別賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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