出版社内容情報
☆情報技術産業だけでなく、教育、地域、民主主義など社会システム全般を拡充する21世紀型イノベーションの全貌!
フィンランドは、これまで社会福祉国家として知られてきたが、最近は情報コミュニケーション技術(ICT)を中心とするハイテク国家としても注目されている。本書は、フィンランドのこうした転換を成功に導いたとされる「国家イノベーションシステム(NIS)」概念の生成、受容、変容のプロセスに、科学技術社会論・文化心理学の立場から批判的考察を加えたものである。その主な論点について紹介してみたい。1990年代初頭、最大の貿易相手国であった旧ソ連の崩壊を契機に厳しい経済危機に直面したフィンランドは、日本の急成長を説明する概念として80年代に提唱されていたNIS概念を、世界に先駆けて政策に採り入れた。このようにNIS概念が、学術領域だけでなく世界各国の政策領域で急速に受容された理由について、ネルソン、フリーマン、ルンドバルの三人の所説を中心に解説する。 次いで、フィンランドにおけるNIS概念の受容について、政策文書と現地の研究者の言説を中心に議論を進める。その結果、フィンランドにおけるNIS概念の受容は、ノキアに代表される同国のICT産業の隆盛とは無関係であり、むしろ現在世界的に注目を集めている同国の教育システムによるところが大きいことが解明される。さらに、やはりモデルとして注目されつつあるフィンランドの地域システムが分析される。しかしその長所ばかりでなく、人口500万人の「小国」がグローバル経済の中で地域を強調することの弊害についても、バイオ・ベンチャーの成長プロセスの事例を通じて検証される。フィンランドは2000年代の初頭には国家競争力ランキングで首位を占めていたが、現在はその地位にない。著者は本書の最後で、イノベーションを積極的に進め、真に競争力を維持するためには、情報技術革命の成果を活用すると同時に、民主主義を徹底し、個人の能力をより高めなければならないとの提言を行っている。(訳者 森 勇治)
目次
インとロダクション―NISに対する本書のアプローチ
第1部 NIS概念の出現と利用(イノベーション研究と政策立案の主流におけるNIS;イノベーション政策用語に対する修辞学アプローチ;イノベーション研究におけるNIS;1990年代のフィンランドの科学技術政策におけるNISの受容 ほか)
第2部 NIS概念の限界と次の選択肢(地域の側面とローカルモデルの移転可能性;政策立案における学習プロセス;情報技術革命、イノベーション政策、そして民主主義)
著者等紹介
ミエッティネン,レイヨ[ミエッティネン,レイヨ][Miettinen,Reijo]
ヘルシンキ大学行動科学部活動・発達・発達・学習研究センター(CRADLE)教授。1948年ヘルシンキ生まれ。1977年ヘルシンキ大学心理学修士、1993年同社会心理学博士。ヘルシンキ市教育計画官、VTT上級研究員、カリフォルニア大学サンディエゴ校訪問研究員、ヘルシンキ大学准教授等を経て、1998年より現職。フィンランド政府の科学技術・イノベーション政策の各種委員、フィンランド・アカデミーの委員等の要職を歴任。そして多数の論文を活動理論、科学技術研究、イノベーション研究の分野で発表している
森勇治[モリユウジ]
1966年神奈川県生まれ。1997年横浜市立大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。同年静岡県立大学助手採用。現在、静岡県立大学経営情報学部講師、ヘルシンキ大学訪問研究員。中小企業診断士試験委員、文部科学省知的クラスター創生事業第2期人材育成アドバイザリーボード専門委員、日本ベンチャー学会イノベーション研究部会幹事等を歴任。2007年環境経営学会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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