出版社内容情報
●過度の世俗化が生んだ政治思想・倫理の貧困を問い直す。
今般アイルランドは国民投票でリスボン条約(EU憲法条約)の承認を可決した。これは、今回こそはということで、EU首脳が相次いで同国を訪問し丹念に地ならしを行い、障壁を根絶した後のことだったので、マスコミも改めて驚く風もなく、結果をごく機械的に報じた。全加盟国による同条約批准はもはや時間の問題であり、来年初頭にも発効の見込みとなっている。リスボン条約がEU憲法であることは条文の記載を一読すれば明白で、かつそれが民主憲法であるなら、その効力の及ぶEU市民の合意すなわち国民投票を前提にすることは当然であるが、EUはこれを、時間の経過を利用することによって、各国議会による議決方式にすり替えてしまった。そして唯一小国アイルランドのみに象徴的に国民投票を行わせ、大苦戦の末に可決させた。本書では、ヨーロッパの平和や自由そして民主主義の苦難の歴史を繙きつつ、EU憲法(条約)の理念に市民共通の理想の明示が欠落していることを主張する。統合開始後半世紀を経た現在でも、EUは依然としてアイデンティティ・クライシスの状況にあり、統合拡大とともにEUの政治的混迷はむしろ深刻化している。民族の歴史に培われた政治思想の結晶である理念を欠いた憲法は、その適用を受ける欧州諸国民の間に齟齬(そご)をきたす。この混迷の要因は、設立構想に掲げられた政治的統合を視野に置くべきEUが、いたずらに近視眼的に目先の経済性や合理性の追求に偏向している点にある。さらにそこへ襲った世界同時経済不況に足許をすくわれ、深刻度はいよいよ高まっている。EUは現状のままでは、EU市民の合意なしに、魂なき憲法(条約)の下に自らの身を服せしめる愚を犯す結果ともなりかねない。ポスト世俗化時代の今日、ヨーロッパ文化の基礎にあるキリスト教文化の掘り起しにより、過度の世俗化が生んだ精神の疲弊や政治思想の貧困に歯止めをかけなければならない。前著『ヨーロッパ統合とキリスト教』に続き、本書でもキリスト教的視点に立った政治倫理の見直しの必要性を説いている。それは著者がひそかに師と仰ぎ、かつて18世紀以来のキリスト教文化の解体を目の当たりにし、それを「巨大なる破局」と慨嘆したトレルチの顰(ひそみ)にならってのものである。ただし、現在のキリスト教のあり方にも当然ながら問題点があり、本書のめざすところは決して凡庸なキリスト教護教論ではない。
内容説明
市民共通の理念を欠いた憲法では危機は克服できない―過度の世俗化が生んだ政治思想・倫理の貧困を問い直す。
目次
第1部 キリスト教と自由の政治思想(キリスト教と自由;自由の探求と時代的危機の認識―代表的歴史観とブルクハルトの歴史観との対比;政治と政治倫理のグローバル化―R.ニーバーとH.キュングの政治倫理観に学ぶ)
第2部 キリスト教と民主主義の政治思想(キリスト教と民主主義;(半)直接民主主義と少数意見―スイスに息づく宗教改革の伝統
キリスト教と政治倫理―ヨーロッパ精神の形成)
第3部 キリスト教と世俗化(現代世俗化社会とキリスト教政治倫理;プロテスタンティズムの政治倫理と世俗化―M.ウェーバーと現代ヨーロッパ;プロテスタンティズムの倫理と脱世俗化―過度の世俗化論への反省;ポスト世俗化時代と統合の今後―21世紀におけるEU)
著者等紹介
坂本進[サカモトススム]
1937年、熊谷市生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)パリ支店長等歴任。コナミ株式会社米国現地法人社長等を経て、早稲田大学大学院博士課程満期退学。学術博士。日本EU学会、経済社会学会、政治思想学会、日仏政治学会、日仏経済学会の会員。現在、早稲田大学日欧研究機構EU研究所研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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