出版社内容情報
★新自由主義の負の経験を乗り越えようとする中南米の人々の多彩な取り組みに、連帯と信頼の社会像を学び取る!
2008年初秋に発生した米国発金融危機は、日本社会にも多大な負の影響をもたらした。様々な生活の困難に直面し、日本が「不安社会」であることを痛感されている方も多いのではないだろうか。そこには、第二次大戦後に構築されてきた日本型の「安心社会」(終身雇用や企業福祉を特色とする)が、90年代以降の「構造改革」路線を通じて崩れ去ったことが露呈している。他方、ラテン・アメリカでは第二次大戦以降国家主導で工業化が進み、少なくとも正規雇用者には一定の雇用・社会保障が与えられ、「安心社会」が成り立っていたといえる。しかし80年代の「失われた10年」でその「安心社会」への批判が高まり、90年代に新自由主義改革が行われて大きくその基盤が浸食され、厳しい社会的状況が出現していた。そのようななかで、同地域では市民相互の連帯と信頼を結び直す動きが活発化し、それをひとつの柱として「安心社会」再構築の試みが始まっている。本書は、このように新自由主義の負の経験においても、それを乗り越えようとする市民社会の試みにおいても先進的といえるラテン・アメリカの人々の「安心社会」への取り組みから、日本への示唆を抽出しようとする試みである。本書は「理論編」と「実践編」の2部から構成される。「理論編」では開発・福祉国家・貧困概念の歴史的変遷および国際的な議論の系譜がたどられ、「安心社会」を考察する上での理論的基盤が解説される。「実践編」では各国の市民社会による試みが問題点や課題も含めて詳説され、そこから読み取られるべき教訓が提示される。この「実践編」で採り上げられる事例は、ペルーの貧困地区における住民の政治参加、メキシコの民衆組織による女性のエンパワーメント、ブラジルの貧困地区における教育実践、エクアドル先住民組織の開発プロジェクトへの参加、ブラジル・クリチーバ市の住民参加型都市計画、アルゼンチン他南米諸国の補完通貨活動など極めて多彩である。最終章では、在日ラテン・アメリカ人労働者の実態の検証を通して、日本の「安心社会」の課題が考察される。執筆者一同、ラテン・アメリカの人々の経験が、日本における「安心社会」再構築に重要な示唆を与えてくれることを確信している。(編者 篠田武司・宇佐見耕一)
目次
第1部 理論編―ラテン・アメリカの経験から「安心社会」を考える(「安心社会」へ向けて―第三の道、人間・社会開発、参加と連帯;社会関係資本と「安心社会」;ラテン・アメリカにおける新たな福祉社会の可能性と市民社会;「貧困」概念と政策の変遷)
第2部 実践編―ラテン・アメリカの人々の多様な試みと社会の課題(地域社会開発への住民参加―ペルーの事例から;女性のエンパワーメントと開発―メキシコの民衆組織・NGO・政府機関;NGOによる教育実践と子どものエンパワーメント―ブラジルの事例から;多民族の共生と市民参加―エクアドルの事例から;人間の生活を中心に据えた都市計画―漢京都市クリチーバの取り組み;補完通貨と地域の再生―南米諸国の例から学ぶ;ラテン・アメリカからの移民労働者が日本にもたらす貢献―千葉県の事例から)
著者等紹介
篠田武司[シノダタケシ]
1945年生まれ。立命館大学産業社会学部教授。現代社会経済学研究専攻
宇佐見耕一[ウサミコウイチ]
1959年生まれ。日本貿易振興機構アジア経済研究所ラテンアメリカ研究グループ長。ラテン・アメリカ社会保障論専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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