出版社内容情報
9・11以降、先進国は途上国への援助を増やしている。しかし、先進国の保護主義政策が途上国に与える損害は援助額の倍。これが「不公正貿易」の決算である。本書で国際NGO(非政府組織)オックスファムは、世界規模のネットワークの総力を挙げて不公正貿易の実態を明らかにした。本書は、「貿易性善説」を明確に否定しつつも、「貿易性悪説」にも立っていない。バングラデシュや中国で、繊維工場がフル操業し、多くの人々を雇用するなど、ある面で貿易は途上国に利益をもたらしている。その一方で、輸出産業が労働者の基本的人権を踏みにじり、輸出むけの資源採掘が環境を破壊している。本書は、貿易が人々の生活や健康、環境をむしばんでいる実例を世界各地から拾い集め、提示している。貿易はやり方次第で私たちの生活を豊かにもしうるし、損ないもしうることを、事実をもって教えてくれる。
貧困をなくし、私たちの生活を豊かにできる貿易。だが、その潜在力は活かされていない。なぜか。オックスファムによれば二つの大きな要因がある。一つは、先進国が途上国に市場の開放を要求しながら、自国市場は途上国製品から守ろうと保護主義政策を採っていることである。本書でオックスファムは、独自の「二重基準指標」を用いて先進国のこの二枚舌ぶりをあぶりだした。もう一つは、世界貿易機関(WTO)が定める「歪んだ」貿易ルールである。それはネオリベラリズム(新自由主義)に彩られている。そこでいう「自由」貿易は、先進国と超国籍企業の立場に寄ったものである。つまり、強者にとっての自由であり、弱肉強食を是とする自由なのだ。
世界規模で貧富の差を拡大再生産しているこの先進国の二重基準とWTOの歪んだ貿易ルールをどう正し、貿易を貧困撲滅のためにどう活かしていくか。それが本書の最大のテーマであり、そのための具体的提言が本書には随所に盛り込まれている。提言の実現を目指し、オックスファムは各国のNGOと連帯して「公正貿易」キャンペーンを繰り広げてきた。こうした活動が実を結び、先進国とWTOはやっと重い腰をあげ、途上国の利益や公衆衛生、環境に配慮した貿易政策/ルールへと舵を切りつつある。しかし、巨大タンカーの進路を180度変えるのは容易ではない。もっと大きく舵を切らせて「公正貿易」の航路に就かせられるかどうか。それは、私たち市民の力にかかっている。(わたなべ・たつや 東京経済大学教員/国際開発協力・NPO論)
内容説明
WTO改革を“刷新”するビジョン・政策・体制。貿易が貧困を撲滅する日。世界中の「貧困者」「生活者」の声を結集した渾身レポート。
目次
第1章 二一世紀の貿易とグローバリゼーション
第2章 貧困削減に寄与する貿易とは
第3章 世界貿易システムから取り残された者―貧困層と貧困国
第4章 市場へのアクセスと農産物貿易―先進国の二重基準
第5章 貿易自由化と貧困層
第6章 長期低落する一次産品貿易
第7章 超国籍企業(TNC)―投資、雇用、マーケティング
第8章 途上国の発展を阻害する世界貿易ルール
第9章 貧困層が裨益できる貿易への転換
第10章 最近の状況と日本への期待(日本語版出版にあたっての特別寄稿)
著者等紹介
渡辺龍也[ワタナベタツヤ]
1952年生まれ。東京大学卒、米タフツ大学フレッチャー国際法・外交大学院修士課程修了。NHK記者、国際機関職員、国際協力NGOセンター(JANIC)スタッフ、日本国際ボランティアセンター(JVC)ラオス事務所長を経て、2000年から東京経済大学教員(国際開発協力、NPO論専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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