内容説明
身にはボロ、心には錦の男の物語。山口県地方では乞食のことをほいとうという。土地の古老の話では、ほいとうは補衣人と書くのだそうで、もともと貧乏でつぎはぎのあたった衣服を着ている人という意味であったものが、転化して乞食のことをほいとうと呼ぶようになったらしい。私の家の隣に住んでいる源さんは、この補衣人本来の言葉がまるでぴったりあてはまるような存在である。貧乏で、最低の生活に甘んじながら、人生をじっくり味わって生きている、まことに不思議な人物である…。人間の生き方をしみじみたる哀歓によって追求する伊藤文学の世界。