出版社内容情報
能の世界に描き出された「女」というものを切り口として、
能の奥深さ、面白さを考察する。
能のどこが面白いのか――。そう聞かれても、すぐには答えが見つからない。けれど、「わからない」のに惹かれる。そんな不思議な魅力に導かれて、謡・仕舞・小鼓・楽屋働きまで実際に学んできた著者が、豊かな実体験と国文学の知見から綴る、新しい能入門書!
(「序文」より)
「数多い能のなかから、本書では、考えに考えて、八曲を選んで読むことにした。
葵上
野宮
紅葉狩
巴
隅田川
道成寺
砧
姨捨
この他にも取り上げたい曲はたくさんあるのだが、まずはこの八曲を選んで、男女情愛の機微、恋情と諦観、女を巡る民俗や信仰、男よりも強い存在としての女、母の愛と苦悩、女の恋の執念と狂気、捨てられた女の苦悩と悲愁、そして老境と孤独、などできるだけ多様な側面から、能の表現していることを読んでみたのである。
読み解くに当たって、それぞれの曲の原拠とすべき先行文学作品、すなわち、『源氏物語』『平家物語』『大和物語』などとの詳しい比較をするだけでなく、さらにその淵源ともいうべき民俗学的な考察も加味したところである。
できるだけ分かり易く書いたつもりだけれど、なにしろ相手は古典文学と能の詞章だから、そこは読者諸賢もじっくりと読んでいただければ幸いである。
そしてもし、ここに取り上げた曲が能楽堂で演ぜられる機会があったら、ぜひとも、足を運んで実際に観てほしいと思うのである。
それが私から読者への、切なるお願いである」
本書を通じて、能の見どころがわかり、「能」鑑賞のコツがつかめるのはもとより、『源氏物語』などの古典世界に対するより深い理解が進む。日本人としての教養が自然に身に付く一冊。
【目次】
第一章『葵上』
主人公は誰なのか/ 源氏の心には別の女性が…… / 源氏と葵上の夫婦仲/六条御息所への不適切な恋/ 紫式部の非凡さがあらわれる「葵上の死にざま」/ 能のなかの葵上/ 江戸時代に復活された演目/御息所の狂乱/御息所を突き動かしたもの/ 不自然な「終りかた」、もっとも影の薄い女
第二章『野宮』
源氏の年上の恋人、六条御息所/ 六条御息所の性格/ くすぶる源氏への想い/ 賢木「野宮の別れ」の名場面/ 能の『野宮』が再現しようとしたものは何か/ 結局、成仏できない御息所
第三章『紅葉狩』
美しい女ばかりの上臈一座/ 女ばかりで何をしていたのか/ 古来五月五日は「女の日」だった/「野」は聖俗の交錯する特別な場所/ 酒の毒と女の色香に当てられて/ 女の正体、鬼とは何か/ なぜ戸隠だったのか
第四章『巴』
五種類に分類される能のテーマ/ 『巴』はなぜ異色なのか/ 義仲最愛の妾(おもいもの)であった女/ なぜ巴は亡霊になったのか/ 巴のうらみ/ 能が作り変えた筋書き/ 能としての美学、曲の背景にあるもの
第五章『隅田川』
能初心者におすすめの曲/ 女物狂いの登場/ なぜ女は「物狂い」になったのか/ 当時は、「地の果て」だった隅田川/ 母と子/ 世阿弥ならどう演出したか
第六章『道成寺』
もっとも 恐ろしげな、ホラー的刺激に満ちた曲/ 美しい白拍子に惑わされて/ 「踏む」という鎮魂呪術/ 改作前の『鐘巻』/ シテが鐘のなかで独力で変身/ かわいそうな男
第七章『砧』
晩年の世阿弥が到達した境地とは/ 主人公は夫に捨てられた妻/ 三年経つと夫婦に何が起こるのか/ 恨みの砧の音/ さながら映画のような見事な一場面/ 突然の結末と女の亡霊/ 『源氏物語』の面影、痛切な悲憤/ 恋の妄執によって死んだ報い/ なぜ成仏できたのか
第八章『姨捨』
駆け出しの能役者には許されない曲/ 月の名所、姨捨山/ 二つの姨捨山伝説/ 能の『姨捨』/ 不思議なことを言う女/ 月の美しさと風流の応酬/ 女の隠者/ 姨捨山の皓々たる満月の夜景/ 名歌に導かれるクライマックス/ 老いの孤独を表現したかった世阿弥の意図
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