内容説明
昭和20年8月12日、満洲・麻山において、日本人開拓団の一団がソ連軍の包囲攻撃を受け、婦女子四百数十名が自決する事件が起きた。介錯は四十数名の男子団員によって行われた。なぜ、男たちは自分の妻子を、また隣人をあやめるに至ったのか。絶望の淵で、自決に臨んだ妻たちと子どもたちの壮絶な最期を、引揚げ者の証言から明らかにする。そこには、戦争がもたらした凄惨な悲劇と、数多の人々の無念、そして生き残った者の絶望が今なお続いていた。初めて明らかにされた満蒙開拓団最大の悲劇の全容。渾身の傑作ノンフィクション復刊。
目次
第1部 満蒙開拓団(北海道開拓農民;加藤完治と開拓団;村創り;その前夜)
第2部 事件(麻山(まぼろしの関東軍―野砲一二六連隊の戦闘;八月九日;八月十日―哈達崗にて;八月十一日、十二日―泥濘の避難行;麻山谷;後尾集団))
著者等紹介
中村雪子[ナカムラユキコ]
1923年、北海道に生まれる。2010年没。長野県立岡谷高等女学校を卒業後、1939年満洲に渡り、1942年に結婚。1946年に満洲より引揚げる。1959年より名古屋女性史研究会に、1979年に東海近代史研究会に所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ののまる
13
満州開拓団の人びとが、ソ連軍の包囲攻撃をうけ、絶望の中で婦女子四百数十名が同じ日本人男子の手によって集団自決した「麻山事件」。妻や幼い子を自分の手で殺した男たち、奇跡的に生きていた子ども数名、奇跡的に引き揚げ者となった男女の証言から再現する。生き残った人たちの戦後の終わらない苦悶もまた悲劇である。政府が奨励した開拓団のこと、外地で終戦後突然切り捨てられた人たち、引き揚げ者のことを,日本は無視してこなかったか。2021/10/11
チャゲシン
2
ソ連軍の侵攻により避難する哈達河開拓団は麻山の地で包囲され進退極まり四百余人が集団自決を遂げる。根こそぎ動員によりそのほとんどが女子供であり、十数人の男性が処置した後、ソ軍に斬り込みをかけるも失敗。何人かは生きて日本に帰る。戦後180度転換した価値観でそのことを云々言うのは容易い。筆者は開拓の背景、入植したものたちの意気込み、侵略と民族協和が入り交じった生活を丹念に調べ、自ら手を下した者、処置の現場から生き残った者に取材し真相にせまる。文字が足らん❗️日本人が忘れてはならない記憶です2022/05/07
早海徒雪
1
戦後明らかになった満州開拓団の悲劇の中で、少数の男子による「介錯」によって何百人もの婦女子が集団自決したという「麻山事件」の「真実」を描いた、同じく引き揚げ者である著者によるルポ。もちろんそんなセンセーショナルなものではなく、夢と理想を持って参加した若者たちが、徹底的に追い詰められ、全てに裏切られて、生きるも「地獄」死ぬも「地獄」の泥沼に叩き落される様が、証言と記録によって丹念につづられており、言葉を失う。「戦争」をはじめとする「国家」の横暴は常に「弱者」の「犠牲」の上に成り立つことを証明する一冊。名著。2013/04/20
どんとこい
1
絶句。日本人として目を背けてはいけない過去。この本で流した涙を明日の活力として生きなければならないと切に思う。生涯大切にしたい一冊であり、記録の枠を超えて一作品としても永遠に評価されるべき傑作である。2013/02/01