内容説明
新宿駅西口地下。都庁へ向かう人の流れのかたわらに、段ボールのかたまりがいくつも並んでいる。通称「段ボールハウス」、ここに暮らすホームレスたちの住処である。二十代の青年、元ゲイバーのバーテン、寿司屋の職人、元タクシーの運転手、大学中退の読書家…。ホームレスという一言ではくくりきれないほど多様な人びとが、ここで奇妙に自由で気ままな暮らしを営んでいる。彼ら一人一人の日常生活を見つめつつ、その喪われた過去の人生と、いま彼らが向き合っている冷徹な現実の肌ざわりまでを描写する。
目次
プロローグ 真冬の段ボールハウス
第1話 柱の向こう側
第2話 幻の家族
第3話 一滴の酒
第4話 恋
第5話 奇妙なバイト
第6話 段ボールサロン
第7話 料理番
第8話 ホームレス体験
第9話 戻れぬ理由
第10話 軽い命
第11話 強制撤去
エピローグ 東京都新宿区西新宿1の1の1
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
155
第20回(1998年)講談社ノンフィクション賞。 「新宿ホームレス物語」というサブタイトルが 付けられた本書は、1993年頃の新宿西口 ホームレスの人々の日々を 人生を 描いた作品である。都会の中で 居処のない 人々が 逃げ込む 段ボールハウス… そこで人々は 何を夢見たのだろうか? 一人一人に 注ぐ視線が 暖かい… そんな印象の作品だった。2018/11/28
おいしゃん
79
【講談社ノンフィクション賞作品】「ホームレス」を、ことさら悲観的に取り上げるわけでもなく、淡々とありのままの姿を伝える著者の姿勢に好感を持てた。しかし、ホームレスたちのありのままの姿、というのを把握するのは存外に大変であろう。実際に彼らと行動を共にし、時には共に寝泊まりしたり、彼らの実家を探し出したりというほどの取材力に、頭が下がる。2016/01/21
nonpono
33
Twitterに、「都庁のプロジェクションマッピングとその下で行われるホームレスへの炊き出し」という趣旨のつぶやきがあり、この夏に、都庁のゴジラを見学へ。そこに至る新宿西口地下道、まずあれだけ賛否両論を生んだ動く歩道が使用停止になり驚いた。そして躍動的なゴジラ、無料であがれる都庁展望台。夜がふけると増える通路の段ボールハウス。90年代みたい。それから読むリストに書いてあったこの本に辿り着く。93年からの新宿西口のホームレスの人生劇場。虚実が交わる世界だが、その奥底にはその人の真実や希望が混じり合っていた。2024/09/30
sibafu
5
同じく中村さんの『新宿ホームレスの歌―「放浪歌人」の70余年』を読んでから。『新宿ホームレスの歌』が一人に視点を当てているのに対して、こちらは複数のホームレスが登場しそれぞれの人生が記されている。生きて死ぬ。国の援助は受けたがらない、故郷へは家族の迷惑になったり恥ずかしいから帰らない。そんなこんなで死んでしまう。読んでいてとても切なかった。中村さんの二冊を読み、ホームレスに文学性を感じた。文学が好きだからホームレスになるのかホームレスだから文学に嵌まるのか……。2013/05/11
maguron
5
人が生きて、死ぬ。それはホームレスも金持ちも変わらない。ただ人生が鮮やかであるかどうかの違いだけだ。この本に鮮やかな生き様、死に様を見た。2008/09/10