出版社内容情報
日本語で独特の貴重な役割を果たし文学作品などでも幅広く愛用され,翻訳とも大切なかかわりをもつ「オノマトペ」の考察にも注目.著者「はしがき」より
Translators, traitors. ( 翻訳者は裏切り者 )
これはイタリア語のことわざの英訳である.
「裏切り」にもさまざまな種類と程度があるが,たとえば,原文の味わいを伝ええない“直訳”や,原文への忠実さを欠く“意訳”も,このことわざのいう裏切りに含まれることになるのだろう.
しかし,“直訳”も“意訳”も,『表現』の仕方の問題であって,ふつうは「正訳」か「誤訳」かを区別する要素にはなりえない.
「誤訳」とは,原文の『解釈』を誤ることから生じる 訳文である.
本書は,“あら探し”から最も遠い立場に立ち,「人の常」である誤りからできるだけ多くを,楽しく,興味深く学ぶことを 編述の目的としている.
多様な誤りのユニークな独創性に感心したり,珍重すべき奇抜さを愛でたりしながら,誤訳の妙味を味わい,言葉のユーモアを楽しみつつ,英語に対する多角的な理解を深め,広げることになる.
本書の大きな特長の一つは,日本語で独特の貴重な役割を果たし,文学作品などでも幅広く愛用され,翻訳とも大切なかかわりをもつ「オノマトペ」(擬音語・擬態語)の項を設けたことである.
大別して,
( a )英語の作品の“和訳”において ――どのような英語の語句・表現に対して,どんなオノマトペを用いて訳文がつくられているか.
( b )日本語の作品の“英訳”において ――日本語独特のオノマトペのそれぞれの意味合いやニュアンスが,どのように工夫して英語で表現されているか.
などを, 具体的に例示した.
Part1 誤訳の点描 ―― 珍訳のユーモア,独創訳の妙味
派手なスーツに身を包み/むき出しのベッドに腰を下ろし/表情を一変させた/大西洋を越える行列/一瞬,激しくもどす/彼女とはいつもより遅く寝る/タンクが道を転がり落ちる/変態的な作曲家?/恐ろしくて,わからない/眼鏡ごしに見上げる/雨の中で,彼女の心は大声で歌う/木に登れば,わめいて気が狂う/どんなことも嬉しいような悲しいような/毒々しいフルーツ・プディング/睥睨するばかりか,歯を剥きだす/彼は呑んだくれになれるか/心のどこかに不安が/手袋をはめた冷たい手ではなをかむ/とやかく言う筋合いではない/やめて,速すぎるわ
Part2 翻訳・誤訳の今昔 ―― 初期の辞書から同時通訳まで
〔1〕初期の英和辞典に見られる“苦心訳”
〔2〕訳語の変還
〔3〕新語の訳語
〔4〕国際関係に影響を及ぼした誤訳
Part3 誤訳の姿態 ―― さまざまな形の原文離れ
誤植に類した誤り/誤植か誤訳か/ぽか/でたらめ訳/語義の取り違え/訳し落とし/水増し訳/複合誤訳/卑俗な表現/化ける引用文/地の文が会話文に変身/固有名詞と冠詞の落とし穴
Part4 誤訳の類別 ―― 各種の誤訳の分類・解説
名詞/代名詞/動詞/形容詞/冠詞/助動詞/副詞/前置詞/接続詞/否定/比較/仮定法/不定詞/分詞/動名詞/関係代名詞/疑問文/強調構文/文の種類/慣用表現/挿入/共通構文/構文/オノマトペ
Part5 オノマトペ(擬音語・擬態語)―― 日本語の特技,翻訳の妙味
〔1〕英 → 和 の訳で オノマトペ が多用される語
〔2〕翻訳と オノマトペ
オノマトペが訳文で効果的に用いられた例
同一の英文を異なる訳者が訳した例
オノマトペ訳がよく用いられる典型的な語の翻訳例
日本語の作品で用いられたオノマトペとその翻訳例
〔3〕詩歌とオノマトペ
中原 道喜[ナカハラミチヨシ]
著・文・その他
内容説明
誤訳の『構造』・『典型』に続く三部作の完結編。頁を追わず、頁数に関係なく、どこを読んでも英語の「核」に触れ、楽しみながら学べる。翻訳で大切な役割を果たす「オノマトペ」を、「英←→和」の翻訳例で実証。これも本書のユニークな特長。
目次
1 誤訳の点描―珍訳のユーモア、独創訳の妙味(派手なスーツに身を包み;むき出しのベッドに腰を下ろし ほか)
2 翻訳・誤訳の今昔―初期の辞書から同時通訳まで(初期の英和辞典に見られる“苦心訳”;訳語の変遷 ほか)
3 誤訳の姿態―さまざまな形の原文離れ(誤植に類した誤り;誤植か誤訳か ほか)
4 誤訳の類別―各種の誤訳の分類・解説(名詞;代名詞 ほか)
5 オノマトペ(擬音語・擬態語)―日本語の特技、翻訳の妙技(英→和の訳でオノマトペが多用される語;翻訳とオノマトペ ほか)
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