出版社内容情報
コンラッドの『闇の奥』の登場人物クルツの「すべての野蛮人たちを絶滅せよ」ということばに取り憑かれた著者は、18世紀後半以降のヨーロッパの探検家、宣教師、政治家、歴史家たちがアフリカに残した負の遺産をたどる旅に出る。そして、アフリカの光景が幼い頃見た強制収容所の写真のイメージと重なり合っていき、植民地での残虐な行為がホロコーストにつながっていったことを独特のスタイルで明らかにしていく。スウェーデンの国民的作家の代表作、待望の邦訳。
内容説明
19世紀末、ヨーロッパ列強による植民地での苛烈な残虐行為を伝えたコンラッドの小説『闇の奥』。作中の帝国主義者の強烈な台詞に取りつかれたスウェーデンの国民的作家が、その舞台となったアフリカをたどり、大量虐殺につながった人種主義、優生思想を旅日記の形で明らかにしていく。
目次
1(インサラーへ;文明の前哨地点;クサル・マラブティンへ)
2(武器の神々;タムへ;友人たち)
3(アーリットへ;キュヴィエの発見;アガデスへ)
4(人種主義の誕生;生存圏、死滅圏;ザンデールへ)
著者等紹介
リンドクヴィスト,スヴェン[リンドクヴィスト,スヴェン] [Lindqvist,Sven]
スウェーデンのノンフィクション作家。1932年ストックホルム生まれ。2019年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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マリリン
32
「闇の奥」は、多分未読だが、野蛮人という言葉は子供の頃から耳にしていた。言葉としては死語に近い状態でも実態は今でも深遠な部分で蔓延しているのではと思う。異質なものを排除し、自分が優位でありたいと願う。根絶やしにすべきは個々の中に潜むことすら気づかない人種至上主義や優生思想ではないか? 形を変え言葉を変え、ほらほら目の前にも潜んでいる。他人事ではない。殺戮にまでは至らなくても気づかないだけだ。最近某国の人間を汚物呼ばわりした日本人がいた。芽は小さいが狂気を孕み成長する脅威を感じる。2024/08/27
塩崎ツトム
20
30年以上邦訳されてこなかったのが惜しいどころか一種の罪悪だと思う名著。「ジェノサイド」という言葉は1944年に発明されたそうだが、19世紀にアフリカ・オセアニアで列強がやったのは紛れもなく「民族浄化」「ジェノサイド」「ホロコースト」であり、ユダヤ人虐殺は完全にそれらの延長に起きた現象であるという証明!何百というクルツが植民地で「劣等人種」を虐殺し、同じ数のハイドリヒが、それに理論づけをしていたという地獄。(つづく)2023/06/08
taku
15
汚物は消毒ヒャッハーは世紀末のせいじゃない。レイシズム、植民地主義、西欧列強をはじめ拳王軍も驚きの所業、民族虐殺は繰り返されてきた。劣等人種の概念と絶滅を正当化して。産業革命以前のヨーロッパ人は外の世界から、移動する戦闘民族とみなされていたらしい。つまり、侵略された側にはサイヤ人来襲みたいなもの。私の虐殺力は600万です。あの人も奥義の伝承者。おふざけ感想でなければ落ち着かないほど、人種至上主義、優生思想による「闇の奥」は深い。それに向き合った、確かに重要な作品と言える。2023/11/29
ポテンヒット
12
衝撃のタイトルはコンラッド「闇の奥」から。この文章に気付きを得た著者はヨーロッパの思想の根源を紐解いてゆく。人種主義や優生思想は特異な者の考えではなく、常識のように広く根付いていたものだった。自らの野蛮性を顧みず残虐の限りを尽くし、それを正当な行為と考える人々に戦慄する。スーダンの話も随分昔の話かと思えば19世紀末、明治時代の話である。公民権運動やBLMがより切実な問題だと感じた。2024/01/20
かいけん
2
大航海時代から帝国主義の拡大に至るアフリカや中南米への入植。宗教的、進化論的解釈を根拠として蔓延する人種主義的ヒエラルキーと歯止めのきかない暴力と殺戮の歴史。最終的にナチスによる工業的な民族の抹殺まで流れ着く、ヨーロッパ人による「野蛮人を根絶やしにしろ」という思想の潮流を、コンラッドの『闇の奥』を下敷きに振り返る。今スーダンの社会情勢もあり、ざっと流れを掴むにはちょうどよかった。まあレイシズムってヨーロッパ人に限った話でもないのだけど。『闇の奥』も読み直そう。2023/04/28