出版社内容情報
妄想を誘発する〈絵画〉
どの絵からも、都会の孤独、犯罪のにおい、エロティックな妄想など、見るものにさまざまな「物語」を立ち上がらせる、ホッパーの世界。現代人の孤独感・喪失感・疎外感を体現させ、その人気は絶対的にNo1。都会の郷愁溢れる、ハードボイルド的・サスペンス的な、ホッパー描く「光と影」の魅力を、大胆自由に考察する。
内容説明
光と影の交錯する夜の都会に、人影ない岬に、下町の裏窓に、喧騒と孤立、犯罪めいた雰囲気、にじみ出るエロティックな想念…。ノスタルジーと、ハードボイルド、サスペンスを想起させつつ、現代人の喪失感・孤独・疎外意識を描くエドワード・ホッパー。その魅力の源泉を、大胆自由に探究する意欲的な評論。
目次
第1部(エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』;エドワード・ホッパーの「光」と「陰」そして…)
第2部(アドルノ、グロイス、ゲーリーそして美術館―美術館に関する若干の覚書)
著者等紹介
青木保[アオキタモツ]
1938年生まれ。文化人類学者。タイを中心にアジア各地でフィールドワーク。1972‐73年、バンコクのタイ仏教寺院で得度修行。東大大学院修了。大阪大学で博士号。阪大・東大・政策研究大学院大学などの教授。欧・米の大学で客員教授。また文化庁長官や国立新美術館館長なども務める。著書に、『日本文化論の変容』(吉野作造賞)『儀礼の象徴性』(サントリー学芸賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
72
美術の研究者ではなく、ひとりの鑑賞者としての「ナイトホークス」への想いを語る。美術館館長にもなり、偶々ニューヨークで原画を見て、思ったより明るいと感じたことから、自分なりに書いてみたいと思って始めた論考。ハードボイルド小説やヘミングウェイの短編を引き合いに出し、自らの言葉で語る絵の印象。光と陰、背中を見せる男、都会の孤独など様々な語句にてもその魅力は語り尽せない。そして女ひとりの絵の中で「Automat」を、ケイト・ブランシェット主演の「キャロル」と比べ語る。重ねた年齢と経験で紡ぎ出す味のある文章を堪能。2020/03/04
さっちも
20
好きな作家さんだ。白人の中流の男女、都市のありふれた風景を描く。悲喜交交も、自己主張もなく。感情表現が削がれ孤絶を感じさせるが、同時に深刻さも絶望もない。「何者にもコミットしないアート」と本文にはある。人間的って何かのおしつけのような息苦しさがあるからだろうか、共感できる部分がある。またどこかで見たい。2019/12/10
くさてる
18
ホッパーの作品について、個人的な思いとそこから広がる随想が語られていく。絵の図番がカラーだったらもっと良かったのだけど、有名作家だけに、すぐに作品が目に浮かぶのも確か。ホッパーの作品とハードボイルド作品のつながりなども面白い。最近読んだ、ホッパーの作品にインスパイアされたアンソロジー「短編画廊」に言及されているのも良かったです。2020/04/08
五十嵐文人
5
ホッパーの絵に登場する人物は、笑うどころか怒ってもいないし悲しみも怒りもない。しかし、それは単純な静寂や現実ではなく、よく評される「孤独」とも違う。ホッパーの対する論評を「ナイトホークス」と「光と影」に焦点を当て、様々な角度で意見を展開していく。例えば、《Early Sunday Morning》は、「早朝の光がふりそそぐのだが、明るい日中を感じさせることはない」と評されている。光線と対称的な黒。でもそれは正しい現実で、紛れもない朝だ。(→)2023/06/04
manana
2
ホッパーの作品にはあくまで説明がなく、鑑賞者はただそこに描かれている光と陰、静けさや孤独を、自分の及ぶ範囲で受け取るしかないとしている。 ナイトホークスを中心としたホッパーの作品について、専門家の考察も引用しつつ、筆者の受けた印象や分析が提示されるが、筆者は一介の鑑賞者でしかないという立場を崩さず、作品の見方やそれに惹きつけられる理由については、あくまで押しつけることなく鑑賞者(読者)に委ねている。 後半では美術館のあり方について考察され、鑑賞者としての自分のあり方についても考えさせられた。2021/01/08