内容説明
わたしたちはAIに負けてしまうのか。いや、そんなことはない。人間の認識や意識、記憶のメカニズムをいま一度徹底的に検討し、自由意志、恣意性、創造性の主体だと考えられてきた“わたし”をその根本から問いなおす。どんなに計算機が発達しようとも、人工知能が絶対に到達することのできない生命の特異性に迫る、人間科学の最前線!
目次
第1部 認識する“わたし”―デジャヴのメカニズム(シンギュラリティ―微動だにせず;純粋過去によって開設されるいま・純粋過去によって開設されるわたし;知覚と記憶の接続・脱接続―デジャヴ・逆ベイズ推論;存在論的独我論から帰結される「貼りあわされた世界」;社会の存立構造から時間の存立構造へ;原生意識―多様性・外部を糊代とする層)
第2部 意識する“わたし”―脳内他者との出会い(以前ゾンビだった私が以後クオリアを持ち、またゾンビとなる―意識・身体経験と固定指示性;『おそ松くん』と二重の身体;生命理論の存在様式―トマス・ブラウンの壺葬論;アナロジーの位相―利口なハンスの知性はどこにあるか;アートな一手、または、脳内他者の直観を私の直感とする)
著者等紹介
郡司ペギオ幸夫[グンジペギオユキオ]
1959年生まれ。東北大学理学部卒業。東北大学大学院理学研究科博士後期課程修了(理学博士)。早稲田大学理工学術院表現工学専攻教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tenouji
12
自己において外部がどのように内部に取り込まれるか。非常に興味深い内容であるが、著者の理論展開には、一読しただけでは、半分以上ついていけないw。情報統合理論など、今まで興味を持ってきたキーワードについて考察されているんだけどね。逆ベイズ推論の解説部分は、恐らく失敗学の創造学の部分と重なるだろう。それが量子効果と関係があるのか!自分はなぜ自分なのか、といった類の思索は、もう食傷気味だけど、外部が如何に内部化するかは、昨今、強く感じてる疑問点なんだよね。そこに直接フォーカスしてる内容はとても面白くて、難しいw。2019/06/06
Gokkey
11
シンギュラリティ、もはや一般的になったこの言葉に我々が抱く違和感の実態は何か? 「AIに仕事が奪われる」という陳腐な心配の背景にある問題の本質は何か?それは意思決定という「このわたし」しか知り得ない内部プロセスがアルゴリズム化され、白日の下に曝されてしまう事への危惧なのではないか。しかし「このわたし」は外部と質料←→形相の動的な接続をもって成立している以上、多元論的価値観の中に生きており、あるアルゴリズムに置き換えられる事などあり得ない。「このわたし」の存在は揺るがない。微動だにしないのだ。2020/02/15
塩崎ツトム
2
内容は難しい。しかしベイズ推定のみに頼る人工知能のシンギュラリティにばかり注目することは、まるで、一刀両断しかゴルディアスの結び目をほどく方法を見出せなかったアレクサンダーばかりを英雄とたたえるようなものだな、という比喩を、この本をきっかけに思いついた。2018/04/02