内容説明
宗教は人類至高の精神的所産なのか?それとも不幸な軋轢をもたらす躓きの石なのか?現代哲学の重鎮デネットがついに宗教の謎と矛盾に取り組んだ。指向的構え、ミーム、信念の思考など諸科学の概念を駆使し、人類史の精神過程をあくまで科学的・論理的に解明する、瞠目の書。
目次
第1部 パンドラの箱を開ける(どの呪縛を解くべきか;科学に関する諸問題;なぜ良いことが起こるのか)
第2部 宗教の進化(宗教のルーツ;宗教、その黎明期;管理運営の進化;団体精神の発明;信じることに価値がある)
第3部 今日の宗教(宗教選びの手引き;道徳と宗教;今何をすれば良いのか)
著者等紹介
デネット,ダニエル・C.[デネット,ダニエルC.][Dennett,Daniel C.]
1942年生まれ。ハーヴァード大学哲学科卒業、オックスフォード大学院にて博士号取得。タフツ大学哲学教授、同認知科学研究センター所長
阿部文彦[アベフミヒコ]
1955年生。フランス哲学専攻。早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得。現在、早稲田大学・明治学院大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かんやん
33
動物の持つ「行為主体を過敏に察知する装置」、そこから生じる指向的構えが、言語の使用とともに複雑になる。それは先祖の霊を想定することになるだろう。占い(行動指針)・呪術(プラシーボ効果)から始まり、儀式の反復による記憶強化といった具合に宗教というミームを起源から解き明かしてゆく。文化人類学による水平的な意味解釈ではなく、垂直的な淘汰・選択・進化の説明。誰が、あるいは何が利益を得ているのか、宗教的コストはどのように回収されるのかという視点。たとえば、暗示にかかりやすい性質は、どのような利益があるのかと問う。2019/12/29
白義
15
ざっくり言うとこの本が主張しているのは二つ。いかに、宗教が生物学的に、文化進化論的に発生してきたかという、宗教への物理・自然科学的探求と、宗教、超自然を特権視せず、開かれた教育と宗教研究を行うべきだというもの。デネットは無神論者だが、相棒のドーキンスより宗教に対して遥かに穏健でバランスのいい視点を持っているし、ボリュームに見合うだけの秀逸な知識、論証が贅沢に盛り込まれている。機能と物理的基盤の面から宗教に迫った本として、記念碑的な大著だろう2011/12/24
roughfractus02
4
著者は本書を9.11後のアメリカ的宗教事情にある人にしか意味がないかもしれないと断った上で、多元的宗教国家をspellという自然宗教的ニュアンスで事象化し、試行錯誤的にアナロジーを駆使して宗教の発生を動物の脳の志向的構えを作るHADDなる装置に見出し、宗教を生存に本来的とする。さらに、親しい者の死の例から儀式の発生を仮設した後、ミーム説をさらに試行錯誤的に展開する。一見冗長に思うが、9.11後の知識人の宗教批判の中、自然宗教に分け入り、既存宗教の何を減じるべきかという問いの土台を作っている。改訂版を期待。2017/03/10
田蛙澄
3
人類が進化論的に宗教を生み出す過程を描き出しつつ、それが果たして善いものなのか、合理的な議論に載せるためにはどうするべきかを述べていてなかなかためになった。ただこの分厚さはいるのかと思う。様々なものに主体を感じてしまう生物の本能的な装置からはじめ、志向的対象としての神を認め、それに儀礼や呪術によって懇願や操作を行う民俗宗教の段階、さらに集団的な結束という社会機能を発展させながら、権力と共存する階級性や組織化の段階を経て、世俗化の中でも極端化によって生存するミームとしての宗教の在り方の描写は興味深かった。2017/01/17
Uzundk
2
原題は「呪縛を解く」である。 長ったらしいが、宗教の研究というタブーに切り込むための緩衝地帯と考えれば宗教を語る前にというだけで多くの字数を必要とするのもしかたない。が、長いので11章とあとがきを先ずは読むべき。 生物学的、進化学的に考えると宗教は頑強なものでは無く、蜻蛉のようなものだ。しかしそのミームを受け入れることで個人に利益があり長く生き残っているのもある。 印象に残ったのは、ミームに対する文化的耐性を考慮すべきという指摘で。備えの出来ていない世界に技術と文化がもたらす危険性を私達は見逃してきた。2014/10/21