内容説明
映画崩壊前夜の自覚が意識に浮上するのは、その瞬間である。実際、これらのフィルムは、かりに自分が映画でないのだとしたら、映画など存在しようもないし、そもそも存在する価値すらないと孤独につぶやいている。時間空間を超えて反復されるそのつぶやきが聞きとどけられるとき、そのときにのみ、映画はかろうじて不可視のスクリーンに向けて投影され、映画は映画であるという同語反復を音としては響かぬ波動としてあたりに行きわたらせる。その投影と波動とを無根拠に肯定する身振り―。
目次
1 崩壊(映画崩壊前夜に向けて)
2 覚悟(その覚悟はできているのか―黒沢清『叫』論;「善悪の彼岸」に―黒沢清『アカルイミライ』論 ほか)
3 誘惑(衣装に憑かれ、水にも憑かれ―中田秀夫『カオス』;応えあうひそかな閃光のように―アレクサンドル・ソクーロフ『モレク神』『ドルチェ―優しく』 ほか)
4 抵抗(「作家主義」にさからってティム・バートンを擁護することの困難―『Planet of the Apes猿の惑星』;老齢の作家ばかりが無闇に元気なこの時代はわれわれに何を告げているのだろうか―エリック・ロメールの『イギリス女性と公爵』 ほか)
5 追悼(加藤泰と「時代劇」の系譜;神代辰巳を擁護する ほか)
著者等紹介
蓮實重彦[ハスミシゲヒコ]
1936年東京生まれ、60年東京大学文学部仏文学科卒業、65年パリ大学文学人文学部から博士号を取得。東京大学教養学部教授を経て、93年から95年まで教養学部長、95年から97年まで副学長を歴任し、97年4月から2001年3月まで東京大学二六代総長。主な著書に『反=日本語論』(筑摩書房、読売文学賞受賞)、『監督 小津安二郎』(筑摩書房、仏訳版でフランス映画批評家連盟文芸賞受賞)、『凡庸な芸術家の肖像―マクシム・デュ・カン論』(青土社、芸術選奨文部大臣賞受賞)他多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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