内容説明
物が記号へ、現実がシミュレーションへと滑り落ちる様を探究するボードリヤール。テクノロジー、象徴交換、マルクス主義再考、アメリカとハイパーリアルなどのテーマを精緻に考察する、現代社会への明晰な案内。
目次
第1章 始まりのとき―一九六〇年代のフランス思想
第2章 物のテクノロジー的システム
第3章 プリミティヴィズムの物語―「最後のリアルな書物」
第4章 マルクス主義再考
第5章 シミュレーションとハイパーリアル
第6章 アメリカとポストモダニズム
第7章 書くことの戦略―ポストモダンのパフォーマンス
著者等紹介
レイン,リチャード・J.[レイン,リチャードJ.][Lane,Richard J.]
ロンドンのサウスバンク大学(ポストコロニアル理論、演劇、文学研究)を経て、ロンドン・ユニヴァーシティ=カレッジおよびマラスピナ・ユニヴァーシティ=カレッジ(ヴァンクーヴァー)英語教授
塚原史[ツカハラフミ]
1949年生まれ。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。パリ第三大学博士課程中退。早稲田大学法学部教授。専攻は、ダダ・シュルレアリスム研究、表象文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白義
11
要領がいいが独自の視点も光るこのシリーズでは特に独自性に舵を切り、ボードリヤールの思想遍歴と方法のスタイルを追いながらそれを批判していくボードリヤール批判論としての面白さが強い。例えば、彼がよく用いる「プリミティブ」な民族と現代を比較は、果たして人類学的倫理に則った適切なものだろうか?とその批判はなかなかきわどいところを突いているものが多い。また、英語圏でのボードリヤール需要も垣間見る事ができてなかなか興味深い。消費社会の理論と構造なんて初期の代表作が、英語圏ではずっと遅れてきて訳されたなどというのは初耳2017/06/09
Mealla0v0
5
英米圏においてポストモダニズムの旗手として受容されていたボードリヤールをその初期から辿る立論となっている。各章に要約と用語説明もあり入門書の体裁を取っているが、一方でボードリヤール批判(特にボードリヤールが用いる人類学概念の用い方に対する批判)もあり、距離も置かれている。ただし、全体を通して広く浅くという印象は拭えず、訳者による注記で著者の誤りが正されている箇所も多く見られ、あくまで話半分といった心構えで読んだ方がいいのかもしれない。とは言え、短いものの、ジェイムソンに触れている箇所はセンスの光る部分。2021/05/07
アルゴス
1
邦訳されている唯一のボードリヤール論らしい。アメリカでポストモダンの思想家としての捉え方がふつうで、この書物でもほぼそうした視点から彼の思想をとらえようとする。もう少し彼の本領に立ち入った分析がよみたかったのだが。少し残念。★★☆2017/12/23
トックン
0
ボードリヤールのいう「ハイパーリアル」という概念がいまいちわからない。ディズニーランドに関する次の発言が印象的。「ディズニーランドは<現実の>この国、<現実>の全アメリカがディズニーランドなのだという事実を隠すために存在している…。」ハイパーリアルとは第三の領域のシミュレーションであり「起源も現実性もない現実のモデルによる発生」のことらしい。そして「ハイパーリアル」は善悪の領野に存せず、ただハイパーリアルであると評価されるだけだという… つまり、ディズニーランドはハイパーリアルなのだろう。2013/07/08
tieckP(ティークP)
0
ボードリヤールの予言的性質は神がかっているけれど、それだけに今になって彼が述べてきたことを振り返ると、発見よりは「当たり前」が先に立ってしまう。便利な用語こそいろいろ残したけれど、時代に寄り添った応用的思想家だからこその宿命として、彼は独自性という形での長生きはしないかもしれないな。シリーズものだから読みきったけれど、他の入門書に目をやる限り、訳者(ボードリヤールの訳者でもある)の塚原氏の「ボードリヤールという生きかた」が1冊目としては良さそう。合わせてグラフィカルな「ボードリヤールなんて知らないよ」も。2012/06/01