内容説明
オウィディウスからフロイトまで、「芸術家」たちの《失われた夢》が、肉体をそなえ、息づき始めた。この夢は、誰がみた夢なのか―。現代イタリア文学の鬼才タブッキが、夢を愛するすべての人に贈る、小さな夢の標本箱。
目次
建築家にして飛行家、ダイダロスの夢
詩人にして宮廷人、プブリウス・オウィディウス・ナーソの夢
作家にして魔術師、ルキウス・アプレイウスの夢
詩人にして不敬の人、チェッコ・アンジョリエーリの夢
詩人にしてお尋ね者、フランソワ・ヴィヨンの夢
作家にして破戒僧、フランソワ・ラブレーの夢
画家にして激情家、カラヴァッジョことミケランジェロ・メリージの夢
画家にして幻視者、フランシスコ・ゴヤ・イ・ルシエンテスの夢
詩人にして阿片中毒患者、サミュエル・テイラー・コウルリッジの夢
詩人にして月に魅せられた男、ジャコモ・レオパルディの夢〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Roy
30
★★★★★ タブッキの愛した芸術家達がみた、ある夜の夢の物語。沢山の人格を持つペソアは自身について「生きた舞台背景」だと言い、そこを通過する彼の人格を「俳優」だと言う。僕はそれが夢なのだと思う。日常の上にいつつも非日常の出来事が起こり、当事者のようで傍観者で居続ける夢。それと僕はこれが読書にも当て嵌まると思う。他者の夢を覗いてみたいのと同じ感覚で本を開き、視点は様々だろうが結局は傍観者でいなければならない演劇のような読書。だからこういう本は僕の欲求をストレートに満たしてくれる。美しい20の夢を見た。2009/08/29
長谷川透
23
『夢のなかの夢』という題名は読者にとって厄介だ。詩人、作家、画家、作曲家、学者などが夢を見ることから全ての物語の書き出しが始まるが、彼らの見る夢が「夢」の中の夢なのか夢の中の「夢」なのかが曖昧であり、この曖昧さは読者が夢の中に迷い込んでしまっている可能性を示唆しているように思う。彼らの見た夢は彼らが読者の夢の中で見た夢であり、これらは関連性がないように見えるが、同じ夢の中を起点にした夢なのだから、全て一つに繋がっている……のかもしれない。著作の秘話がまた興味深く、この物語を一層素晴らしく引き立ててくれる。2012/11/09
nami_dayawati.devi
3
ラブレー、ゴヤ、ドビュッシー、ペソアなど20人の芸術家の夢を描いた作品。彼らの作品、人生、創造力からタブッキが想像し、織り上げたものだろう。タブッキの作品は読み手が夢を見させられているような感覚に陥るものが多いように思うが、これは本当に夢。見える世界はどこか歪んで、腑に落ちないような状況や進行にも、夢だからと納得できてしまう。 ここに描かれた夢を見ていた芸術家たちの寝覚めに思いを馳せる。 2012/06/08
かとう あき
1
夢と現実は相互に作用しあう。どちらも存在する。そんな夢を研究したフロイトを最後に持ってくるのがタブッキらしい。タブッキがペソアになっているのかもしれない。2013/08/31
黒猫
1
夢には非論理的で抽象的な(それだからこそ夢なのだけど)ことがたくさんあり、例えばぱっと場面が変わることなど、そういったところがうまいなあ、本当に夢の中であるよなと思いました。印象に残る夢の断章がたくさんありました。2013/01/24