内容説明
「僕は幸福だったし、いまもそうだ」ムルソーの最後の叫びは何を意味するのか?『異邦人』が投げかける本質的な4つの問いを中心に、カミュが作品に込めた想いをときあかす。変えることのできないものに意味を与え、和解を可能にする文学の豊かな力が見えてくる。
目次
はじめに 始まりはいつも晴れ?
第1章 ムルソーは異邦人か(「異邦人」とは何か;カミュの初期作品における「異邦人」の使用 ほか)
第2章 ムルソーはなぜ泣かないのか(ムルソーはなぜ母親の葬式で泣かないのか;作者のことば ほか)
第3章 ムルソーはなぜアラブ人を殺害するのか(殺人にいたる経緯;アラブ人との出会い ほか)
第4章 ムルソーは幸福か(幸福な死刑囚;最終章のもつ意味 ほか)
おわりに 思い出はいつの日も晴れ?
著者等紹介
東浦弘樹[トウウラヒロキ]
1959年、兵庫県生まれ。京都大学文学部フランス文学科卒業。関西学院大学文学研究科(フランス語フランス文学専攻)博士課程在学中に、フランス政府給費留学生として渡仏、ピカルディー大学(アミアン)で、国際カミュ学会会長ジャクリーヌ・レヴィ=ヴァランシ教授に師事。関西学院大学文学研究科単位取得満期退学。ピカルディー・ジュール・ヴェルヌ大学文学博士。現在、関西学院大学文学部教授(フランス文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
めがねまる
34
『名作は読者に沈黙を強いる』カミュの異邦人はまさにそれで、わけがわからない、ただただすごい、面白い。でも言葉にできない...。そんな時に、面白さを言葉にしてくれ、訳のわからなさを少し解きほぐしてくれるのが、この本だった。やさしい語り口の読みやすい文章で、専門書のような敷居の高さはなく、肩の力を抜いて読める。1度読むだけではわからないところもあったけど、再読も苦ではなさそう。実際、躓いた箇所を読み直しながら読んだが、スッと頭に入ってくる。今回は図書館で借りたが、久しぶりに手元に置きたいと思える本だった。2017/04/17
テツ
23
カミュの名作『異邦人』の解説。あれを最初に読んだ中学生のときに全体に流れる空気やムルソー自身の味わいについてはしっかりとぼくの内部に刺さった覚えはあるけれど、そうして刺さり残った理由を言語化することはきっとできなかったと思う。本書ではカミュの抱えていたリアルな問題を異邦人という物語を通して癒やしていったのではないかという視点に気づかされ、ムルソーの幸福の形ということについて考え直させてくれた。文学研究はとても奥深く面白い。ぼくも再読したくなりました。2021/07/10
鷹図
12
不条理劇として名高い『異邦人』を、その実ある種のマザコン小説であると喝破する一冊。噛んで含んだような語り口に最初はナメていたところがあったが、カミュの複雑な生い立ちやトラウマ、当時のアルジェリア情勢を加味して導き出す作品読解は明晰かつ平易。一部と二部の語りの落差の疑問もすっきりと解説されていて、膝を打つことしきり。「…自分に隠れて愛人をつくった母親に嫉妬する息子が、母親に復讐することで嫉妬や憎悪を超越し、最終的に自らの死をもって母親と永遠に結びつく物語」。なるほどね。時々漏れる野崎歓への苦言には笑った。2011/11/19
すずき
5
異邦人の主要な謎に対する答えは提出されている良解説書。個人的にはどうして海水浴に行ったのかとか謎の接続詞とかに触れられてないうえ他にも突っ込みどころはあったので少し物足りなくはあるが、それでも面白かった。ただサルトルからの引用だけが何を言ってるのかさっぱりわからない2016/06/11
きぅり
4
読み始めた日も読み終わった日も雨でしたが、『晴れた日には「異邦人」を読もう』を読了。異邦人の解説だけじゃないので、カミュ一通り読んどかな分からん部分もあるけど、ムルソーなりの幸福というものについてよく解説されていたように感じる。「公務員の二次試験(面接)の前日に異邦人読んだ」と元カノに言うと「だめなやつじゃん」と言われて落ちたことを思い出して、いまになって思えばその当時の元カノが一番不条理というものを理解していたように思う。2016/05/06