内容説明
リアルな現実描写を比喩にまで到達させる力量をもった著者。2012年から2016年までの「未来」誌上の作品を収録した、鮮烈な印象をもたらす、生涯一冊の歌集。
目次
二〇一二年(飛んでゆけ;鏡のなか)
二〇一三年(愛に似たもの;海鳥の名 ほか)
二〇一四年(羅針盤;水鳥のはがき ほか)
二〇一五年(月光の及ばぬ海;転調のあと ほか)
二〇一六年(海に死ぬ;静かな場所 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
30
#短歌 「羅針盤」 ただ青き海原が見ゆせめぎ合う領海線のあちらとこちら p.55 最新鋭の巡視船です(大海に浮かべば初戦金属の箱) p.56 本当は誰かが縋(すが)っていた筈の救命浮環を拾い上げたり p.57 海鳴りにひれ伏しながら眠る夜に回り続けている羅針盤 沈みゆく舟が底(そこい)に刺さるまで何もできずにいたことがある p58 またひとり海に死にたりわれはまだ中途半端な生を抱えつ p59 #返歌 純白の布を纏って天にますお疲れ様ね朝顔の種2018/02/08
yumicomachi
2
海上保安官であった著者の、歌誌「未来」入会から亡くなるまでの三年八ヶ月の作品が収録された遺歌集。柔らかな感性で詠まれた歌からは、厳しい仕事に傷ついたであろうことも想像されて切ない。〈山頂も白くなるらんサーカスが帰り仕度を始める頃は〉〈港口を出れば電波が薄くなる もう届かない君のツイート〉〈ただ青き海原が見ゆせめぎ合う領海線のあちらとこちら〉〈傍らで黙り続けている君の記憶からわれが消えてしまう日〉〈体内は古き公園 誰もいないベンチに春の雪積もらせて〉解説は選者であった佐伯裕子。2018/08/24