内容説明
1999年春、滞在するパリから帰ると、東京は巨大なフェイクの街だった。浮遊しそうな身体、方位を失った心、そして父の死―。世紀をまたぎ激しく変容する世界と共振しつつ「今」を生きるとは?作者、10年ぶりの新歌集。
目次
1999年(眩しい孤独;模造真珠)
2000年(荒神山の湯の神が;パイ生地と桜 ほか)
2001年(雪、神、手斧;紅玉はどこへ行ったか ほか)
2002年(鏡より馬がすんなり;最終列車に乗るごとく ほか)
2003年(いつからが夜明け;緋めだか ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
43
#松平盟子 #短歌 #現代女性歌人展 七月はわが生まれ月水浸しと酷暑を半ばあわせもつ月 浴槽に身を沈めればその縁を苦きものらは零れてざんざ 湿度なきパリの小雨に諭されて弥生尽帰国せし日も小雨 氷雨のもと昭和天皇崩御せり梅雨の晴れ間を皇太后逝けり さびしさは背骨がすすうと抜け落ちて呑川に落ちる音の小ささ 呑川は流れて羽田沖に出るたゆたう水の重さに押されて 2016/07/12
qoop
5
さばけていながら粘性で、透明感を持ちながら湿度が高い。微妙に相反する要素を兼ね備えた歌と感じた。冷徹に見やるのではなく、寄り添うというほど近くもない距離感。作家が備えているべき素養を高いレベルで持っているのかとも思える。読み返すたび陰影が濃くなる。 /あの日パリのメトロで失禁せし老女ひとすじ流るるままに年暮れし /垂れこむる冬雲のその乳房(ちちふさ)を神が両手でまさぐれば雪 /見晴らしのわろき足柄峠越え中年金太郎の性格暗からん /浄土へと逝ったらしき父、雑食の生身たずさえわれは数珠とる2019/10/10