内容説明
海に降る雨のように、三十歳代の生は、陰翳を深めつつ、豊かな広がりを生み出してゆく。日常生活の背後に息づいている歴史や風土を、繊細でありながら強靱な文体で捉えた、充実の第三歌集。
目次
遊就館にて
ごはんつぶ
塩おにぎり
ねむの花
感光
樹皮
顔面
五十六生家
まんさく
祖父の部屋〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はち
4
99年から2004年までの歌をまとめた歌集。祖父のことを歌う歌や地元宮崎を歌う歌はここから多くなるのだろうか？（『夜光』は一部しか読んだことないもので）そして2001年を挟むということはアメリカ同時多発テロの歌も…。文語と口語の融合を狙っていたのだろうか。最後の鯖街道の歌もそうだが、吉川さんの端正な文語短歌の中に口語が入るととても無防備のように思う。2015/11/24
黒髪
1
「「手短」は差別語です、と電話あり教師の声は朗々として」「いつか僕も文字だけになる その文字のなかに川あり草濡らす川」「ふたりの子生みたる妻は湯に座る 運がよかっただけかもしれぬ」「吹き替えの映画のように君が代のピアノにあわせ口の穴あく」「瓦礫道 そこに死体があるらしくぼかしをよて兵士は進む」。祖父を背景にした句も面白い、「天皇が宮崎生まれのわけが無え。夕闇畑に祖母は言いたる」「神武とは『古事記』の嘘だ 青黒くひろがる海に書かれた嘘だ」。2025/01/21
toron*
0
考える間もなく終わる戦争よ考える間に人は死ねども 夜の時間を味方につけて書いてゆくエッセイのなか祖母が来ている 原稿用紙のまんなかにある橋は何 ほととぎす鳴く夜にひろげて 好きなことだけして生きるなんて嘘 橋といっしょに雪に濡れたり にんげんをやめたいなあとおもうから人間なのかオンブバッタよ 吉川さんの歌集はこれで4冊目で、読んでいて良い意味でしんどくならない。子供の歌も、子供というよりは人間に接している感じで、普段はあまり好きではないのに好もしく読める。また自分はよく「橋」の短歌に惹かれる。2020/08/04
