本は物である―装丁という仕事

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  • サイズ A5判/ページ数 242p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784788512108
  • NDC分類 022.57
  • Cコード C0072

出版社内容情報

◆本は物である――まえがき(抜粋)

 手近な辞書で「装丁」を引くと、「書物を綴じて、表紙・扉・カバー・外箱などをつけ、意匠を加えて本としての体裁を飾り整えること。また、その意匠。装本。」(大辞林)とある。
 「装丁」をなりわいとして十数年が経つが、この仕事が十分に理解されているようには思えない。装丁展を開くと、こんな質問をされることがある。

「たくさんの本がならんでいますね。この表紙をすべて描かれたんですか」
「いえ、絵を描くこともありますが、基本はイラストレーターにお願いしています」
「では本を書かれるんですか」
「いえ、本を書くのは著者で、それをまとめるのが編集者です」
「では表紙の字を書くんですか」
「いえ、表紙に使われている文字はコンピュータに入っているんです」
「では、いったいあなたは何をしているんですか」
「えーと、それはですね……」

 こうしたやりとりになるのも無理はない。テクストを三次元の「物」として立ち上げていくプロセスなんて、一般読者には、なかなかイメージしづらいだろうから。

 装丁を建築にたとえれば、話は多少わかりやすい。建築は住まう者を外界から守る「保護材」であるばかりでなく、住まう者の生き方を表出し、規定する。
 いうまでもなく、建築は建築家抜きに存在し得ないが、建築家が実際に大工や左官をするわけではない。居住性やデザイン、予算的な制約も勘案して建築全体のプランを組み上げるのが建築家の役目だ。だから、装丁家を「書物の建築家」になぞらえて誤りではないだろう。独創的なブックデザインを切り拓いた杉浦康平が建築科出身なのも、おそらく偶然ではない。
 建築と同様、装丁においても、デザインの独創性ばかりでなく、「住まう者(=テクスト)」を生かす機能性を両立させなければならないし、同時に、「保護材」としての確固とした構造(=造本)を考慮する必要もある。というわけで、一口に「装丁」といっても、実際の作業においては、さまざまな知識と配慮が必要となってくるわけだ。

 ところで、人間が建築を必要とするのは、人間が身体を持つからだ。身体がなければ、そもそも雨風をしのぐ必要などない。現在、書籍電子化に伴って起こっている事態はどうだろう。紙やインキといった物質性、いわば〝身体〟を失ったテクストは、もはや装丁を必要としない。書籍電子化は、装丁家の存在理由を根本から揺るがす。だから本書でも、そこここで書籍電子化について触れている。「商売敵」という気持ちもないわけではないが、それ以上に、電子ブックが読書という行為に及ぼす影響について、できるだけ冷静に考えてみたつもりだ。

内容説明

本に命を吹き込む「装丁」という仕事、その過程から紡ぎ出された装丁論・仕事論にして出版文化論。電子時代にこそ求められる「本のかたち」を真摯に問う。

目次

第1章 装丁あれこれ―「物である本」を考える(装丁?装幀?ブックデザイン?;戦後日本のブックデザイン ほか)
第2章 本づくりの現場から―「吉村昭歴史小説集成」の製作過程(本づくりの基本;装丁・装画の作業 ほか)
第3章 わたしが装丁家になったわけ(期せずしてミッション系大学へ;キリスト教NGOで働く ほか)
第4章 装丁は協働作業―さまざまな仕事から(著者と装丁―長谷川宏・摂子夫妻との仕事;画家と装丁1―金井田英津子さんとの仕事 ほか)
第5章 かけがえのない一冊(かけがえのない本をつくる;「地産地消」の本―杉田徹さんとの仕事 ほか)

著者等紹介

桂川潤[カツラガワジュン]
装丁家。1958年東京生まれ。立教大学大学院文学研究科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

shikada

10
装丁=本の表紙・カバー・外箱などを作る仕事を解説する一冊。装丁の歴史や、デザインの考え方を詳しく説明している。確かに装丁は大事で、「ジャケ買い」なんて言葉があるくらいで、本の内容を知らずに手に取る読者にとっては、装丁が非常に雄弁な役割を果たしていると思う。自分が昔読んだ「オオカミ族の少年」の装丁を本書の筆者が担当していて、当時、装丁がどのように決まったのかのエピソードを懐かしく、また興味深く読んだ。2019/06/01

KIO

7
物としての本がどのように作られているかがよくわかる本です。こういう本はあまり無いように思っており、貴重かなと思い読みました。僕にとっての手にとる具体的なきっかけは、カモミールさんという人がかつていて、その人が出版された本を手に取って「うん。完璧な装丁だ!」と満足げにときどきつぶやいていたのですが、装丁にこだわる人に僕の人生ではまったく会ったことがなく、現在に至るまで、彼女ただ一人だったのですが、それで本の装丁に興味を持ったのです。安く手に入るまで大分待ったのですが、安く買ってよかったとしみじみと思います。2020/06/29

こはね

5
本に興味のあるすべての人に読んでもらいたい一冊。正直、間で何度が意識が飛びかけましたが(笑)、内容はとても充実しています。本の作り方、デザイン、タイトルの文字など、必ず目にしているにも拘らずあまり記憶にとどまっていない本のあれやこれを詳しく教えてもらえた気分です。そして、参考文献のリストがすごくいい!興味のある本が多くてそわそわしてしまいました。2011/07/19

nizimasu

4
装丁という仕事の流れに加え、装丁かがどのように考えて書籍のデザインをしているかが、わかる本。とにかく、著者が読者につたわるように丁寧な筆致で書いていて人柄が伺えます。電子書籍の時代だからこそ、本を所有する喜びというのが、もっとクローズアップされてもいいのかもしれない2011/03/08

Koki Miyachi

3
多和田葉子の「溶ける街、透ける路」の装丁を見て気になった装丁家「桂川潤」が装丁を語る。これを読まない手はないだろうと手に取った。装丁を巡るデザインの流れ、本づくりの基本と制作過程、装丁家になったワケ、著者とのコラボレーションで生まれた様々な仕事の数々。電子ブックを認めながらも、物としての本の持つ身体性や物質性の大切さを語り、その可能性を静かに熱く語る。物づくりの現場の今の時代の共通の課題を提起しながら、ものづくりとしての装丁の姿勢を伝える姿勢に大いに共感した。2013/12/09

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