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出版社内容情報
◆本は物である――まえがき(抜粋)
手近な辞書で「装丁」を引くと、「書物を綴じて、表紙・扉・カバー・外箱などをつけ、意匠を加えて本としての体裁を飾り整えること。また、その意匠。装本。」(大辞林)とある。
「装丁」をなりわいとして十数年が経つが、この仕事が十分に理解されているようには思えない。装丁展を開くと、こんな質問をされることがある。
「たくさんの本がならんでいますね。この表紙をすべて描かれたんですか」
「いえ、絵を描くこともありますが、基本はイラストレーターにお願いしています」
「では本を書かれるんですか」
「いえ、本を書くのは著者で、それをまとめるのが編集者です」
「では表紙の字を書くんですか」
「いえ、表紙に使われている文字はコンピュータに入っているんです」
「では、いったいあなたは何をしているんですか」
「えーと、それはですね……」
こうしたやりとりになるのも無理はない。テクストを三次元の「物」として立ち上げていくプロセスなんて、一般読者には、なかなかイメージしづらいだろうから。
装丁を建築にたとえれば、話は多少わかりやすい。建築は住まう者を外界から守る「保護材」であるばかりでなく、住まう者の生き方を表出し、規定する。
いうまでもなく、建築は建築家抜きに存在し得ないが、建築家が実際に大工や左官をするわけではない。居住性やデザイン、予算的な制約も勘案して建築全体のプランを組み上げるのが建築家の役目だ。だから、装丁家を「書物の建築家」になぞらえて誤りではないだろう。独創的なブックデザインを切り拓いた杉浦康平が建築科出身なのも、おそらく偶然ではない。
建築と同様、装丁においても、デザインの独創性ばかりでなく、「住まう者(=テクスト)」を生かす機能性を両立させなければならないし、同時に、「保護材」としての確固とした構造(=造本)を考慮する必要もある。というわけで、一口に「装丁」といっても、実際の作業においては、さまざまな知識と配慮が必要となってくるわけだ。
ところで、人間が建築を必要とするのは、人間が身体を持つからだ。身体がなければ、そもそも雨風をしのぐ必要などない。現在、書籍電子化に伴って起こっている事態はどうだろう。紙やインキといった物質性、いわば〝身体〟を失ったテクストは、もはや装丁を必要としない。書籍電子化は、装丁家の存在理由を根本から揺るがす。だから本書でも、そこここで書籍電子化について触れている。「商売敵」という気持ちもないわけではないが、それ以上に、電子ブックが読書という行為に及ぼす影響について、できるだけ冷静に考えてみたつもりだ。
内容説明
本に命を吹き込む「装丁」という仕事、その過程から紡ぎ出された装丁論・仕事論にして出版文化論。電子時代にこそ求められる「本のかたち」を真摯に問う。
目次
第1章 装丁あれこれ―「物である本」を考える(装丁?装幀?ブックデザイン?;戦後日本のブックデザイン ほか)
第2章 本づくりの現場から―「吉村昭歴史小説集成」の製作過程(本づくりの基本;装丁・装画の作業 ほか)
第3章 わたしが装丁家になったわけ(期せずしてミッション系大学へ;キリスト教NGOで働く ほか)
第4章 装丁は協働作業―さまざまな仕事から(著者と装丁―長谷川宏・摂子夫妻との仕事;画家と装丁1―金井田英津子さんとの仕事 ほか)
第5章 かけがえのない一冊(かけがえのない本をつくる;「地産地消」の本―杉田徹さんとの仕事 ほか)
著者等紹介
桂川潤[カツラガワジュン]
装丁家。1958年東京生まれ。立教大学大学院文学研究科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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