出版社内容情報
世はデジタル時代。脳も、スーパーなデジタルコンピュータだと考えている研究者もいます。しかし、脳スキャンをはじめとする最新の技術や脳傷害の研究、動物研究から明らかになってきたのは、脳は、外界を無数の地図でモデル化していて、そのための特定の仕事に特化した無数のアナログコンピュータをもっている、という事実です。カエルはハエを捕るのに、方向や距離を計算していたら間に合いません。虫を検出し、動きの方向を検出するアナログコンピュータの描く地図によって、瞬時に反応しているのです。
脳のなかには複数の地図があって、それらが私たちの空間知覚の基礎をなしている。哲学者バークリーや科学者ロッツェは、空間の経験を理解するために決定的に重要なのは、私たちが身体を動かさなくてはならないことであり、そこにはマップが必要だと主張した。私も同じ意見だ。ものを見るとき、眼は物理空間のさまざまな方向からくる光を受けとり、次に脳がその物理空間に位置づけられた行為を産み出す。視覚の最初の段階は、眼のなかでの像であり、その次にくるのが後頭部にある粗いマップである。・・・・・・。そしてそれらのマップにはかならず空間的要素があって、次の段階に欠かせない。視覚から行為にいたるこの経路には、マップが消えて「空間の視覚的意識」が現れるといった、謎めいた横道などない。空間の視覚的意識というのはたんに、網膜から行為にいたるさまざまなマップの活動そのものなのだ。(本文「はじめに」より)
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【関連書籍】
『 誰のためのデザイン? 』 D・A・ノーマン著 (定価3465円 1990)
『 大脳皮質と心 』 J・スターリング著 (定価1890円 2005)
『 記憶・思考・脳 』 横山詔一、渡邊正孝著 (定価1995円 2007.5月)
【書物復権 2007】
『 日常生活の認知行動 』 J・レイヴ著 (定価3780円 初版1995)
内容説明
脳は空間を無数の地図でモデル化するアナログ・コンピュータ―。視空間の研究がひらく脳理解の大逆転。
目次
第1部 像とマップ(眼に焼きついた殺人犯;マップのなかの表現;「積年の問題」;ひとつ眼の視角;「動くものは痕跡を残さない」)
第2部 マップとモデル(「ものごとの実際の力学モデル」;学習する機械;コントロールされた幻覚;バベルの画像図書館)
第3部 空間と身体(「闇のなかで旋回する」;座標系)
第4部 意識はどこに?(運転手を殺ったのはだれ?;浮気心の芽はどこに?;無意識的知覚;水車小屋のなかへ;聖杯はいずこに?)
著者等紹介
モーガン,マイケル[モーガン,マイケル][Morgan,Michael]
イギリスの視覚研究の第一人者。王立協会会員。学部と大学院をケンブリッジで学び、ケンブリッジ大学、マギル大学(カナダ)、ダラム大学、ロンドン大学(ユニヴァーシティ・カレッジ)、エディンバラ大学を経て、現在はロンドン市立大学教授。専門は実験心理学と認知神経科学で、多数の研究論文がある
鈴木光太郎[スズキコウタロウ]
新潟大学人文学部教授。専門は実験心理学。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。