出版社内容情報
民本主義の潮流を背景に刑法、精神医学、社会政策の諸分野に生じた<社会>の発見、<他者>の同化過程を領域横断的な言説分析の手法によって詳細に追究し、昭和ファシズムのへと連なる<大正的なるもの>の知られざる相貌を発掘する気鋭の意欲作。
内容説明
大正デモクラシーとは何だったのか?法から人間へ!犯罪、狂気、貧困、政治の分野で共通して起きていた一見進歩的な言説の転換。「大正的な権力」はいかにして昭和のファシズム体制へと結びついていったか。
目次
1 人格を裁く刑事制度(正義を批判する刑法学;治療としての処罰;法の不正を夢想する刑法学)
2 精神医学の誕生(狂気を監禁する社会;悪性の源としての狂気;狂気を探知する精神医学)
3 社会を監視する方面委員(国家的な救済主体の抹消;「社会民衆生活の気象台または測候所」)
4 統治システムとしての民本主義(法と主権をめぐる攻防;主権者なき政治システム)
終章 法から解放される権力
著者等紹介
芹沢一也[セリザワカズヤ]
1968年東京都に生まれる。1992年慶応義塾大学文学部卒業。1998年慶応義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、慶応義塾大学大学院社会学研究科研究生
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感想・レビュー
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カザリ
51
おもしろかった。よい本とは、答えを提示することではなくて、よい問いかけ、問題提起をすることなのだな、と思った。内容自体は難しいし、慎重だし、ある意味で実感が伴わない言葉の連続だったので、理解はおぼつかない。とはいえ、全体を通して私が知りたいのは全体主義が生まれる経緯と法がないがしろにされて、国家権力がのさばった結果、戦争になるんじゃないかということ。そして戦争というわかりやすい外部があるならまだしも、見えない圧力による社会統制ほど不自由で発狂しそうになるものはないと思う。2015/09/04
Mealla0v0
6
大正期の日本で生じた統治様式の根本的な変化についての系譜学的考察。日清・日露戦争の終結に伴う外圧の低下、日比谷事件に代表される民衆の登場を背景に、〈法からの解放〉と呼ぶべき変化が生まれた。法、すなわち主権という超越者が宙吊りにされ不可視化されると同時に、社会という内的な統治空間が登場した。大正期の権力は社会に内在することで機能するが、具体的には、新派刑法学、精神医学、方面委員制度、民本主義という言説・実践という形を取った。社会という変動項を統治に取り込み、個々別々の人格に配慮しながら全体へと統合する権力。2021/02/04
1
面白い本だと思う。特に、「精神医学の誕生」における日本精神医療の系譜学的分析。明治~大正時代の、「司法のうちではなく、司法のかたわらに精神医学的な実践の基礎をかたちづく」ことによって「精神病者=犯罪者」という図式を利用して、「社会を防衛する」ため精神病院に監禁する。しかし、「狂気と予防」という関係(狂気を「その振る舞いにおいて識別していた認識のあり方」から「不可視の性質」)という風に治療する対象として設定しなおすことによってそのヘゲモニーを確立させる。2016/10/20