出版社内容情報
抱きしめ育ててくれるやさしい母か,子供を食い物にする恐い母か,文学のみが語りうる母の真実。源氏物語から鏡花,芥川,谷崎を経て,両村上,林芙美子,大庭みな子までのディスクールの多様なイメージをたどり,今後の家庭と社会の行く末をよむ。
「日本の母」はどこにいるのだろうか?文化的な言説は、それを超歴史的で運命的なものと断言する。だが、文化的なカテゴリーがつくりあげるのは、規範的な文化理想であり、現実ではない。女性学とフェミニズム文学批評とは、文化的なカテゴリーと現実のひとりひとりの女性の間の解離を問題にしてきた。もし「日本の母」が日本社会の「文化遺伝子」であり、家族関係の中で身体化されるものならば、日本に生まれ育った女はこの運命から逃れられないことになる。フロイトは女性に「解剖学的宿命」を宣言したためフェミニズムから強い反発を受けてきたが、ペニスや子宮の有無という解剖学に変わって今度は文化が「宿命」となる。(「「日本の母」の崩壊(上野千鶴子)」より)
【目次と執筆者】
まえがき (平川祐弘)
福沢諭吉の母 (大嶋仁)
理性の敗北、カオスの母の勝利 (鶴田欣也)
母のいない「妣が国」 (松居竜五)
詩神との婚姻 (コーディ・ポールトン)
「母に恋ふる記」における母体の風景 (アンソニー・リーマン)
『細雪』における母恋いのテーマ (ミセリ・ジョン)
日本文学にあらわれた「母恋い」と子宮のイメージ (レベッカ・L・コープランド)
想像界再訪 (ブラッド・アンベリ)
三島由紀夫と宮沢賢治における子宮の(脱)形而上学 (萩原孝雄)
「日本の母」の崩壊 (上野千鶴子)
縁に立たされて (ニーケ・ランナグトン)
現代日本文学における終末論と母親殺し (テッド・グーセン)
『源氏物語』におけるママ・トラウマ (ケネス・リチャード)
母性再考 (ジャニス・ブラウン)
倉橋由美子のフィクションにおける母娘関係をめぐって (榊敦子)
エロスか母性か (佐伯順子)
高峰秀子はなぜ子を亡くす母を演じるのか? (小谷野敦)
“人を喰う母” (スーザン・フィッシャー)
山姥のmind-readingの正体とは何か (平川祐弘)
あとがき (萩原孝雄)
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【関連書籍】
『 フランスから見る日本ジェンダー史 』 桐沢直子、中嶋公子編 (定価3360円 2007)
『 帝国と暗殺 』 内藤千珠子著 (定価3990円 2005)
『 戦略としての家族 』 牟田和恵著 (定価2310円 1996)
内容説明
抱きしめ育ててくれるやさしい母か、子供を食い物にする恐い母か、文学のみが語りうる母の真実。源氏物語から鏡花、芥川、谷崎を経て、両村上、林芙美子、大庭みな子までのディスクールに、その多様なイメージと変遷をたどり、今後の家庭と社会の行く末までをよむ。
目次
第1部 作家の背後にひそむ母
第2部 母を恋ふる記
第3部 母を殺せ
第4部 母性再考
第5部 フェミニズム解釈の功過