出版社内容情報
《内容》 今年も「糖尿病学2004」を刊行する季節となった.昨年から「基
礎研究」「臨床・展開研究」の2つのカテゴリーに分類しているが,
当然のことながら両者は糖尿病研究の車の両輪であり,密接に関連
するものである.基礎研究11編,臨床・展開研究7編の論文の中に
この1年の糖尿病学研究の進歩が凝集されている.
Foxo1は糖尿病領域でもっとも注目されている転写因子の1つであ
る.PKB/AKTによるリン酸化によって活性調節を受けるが,肝,脂
肪組織,筋,膵b細胞と広範な組織・細胞で糖代謝調節に重要な役
割を演じている.「アディポミクス」という新しい学問分野を切り
開いてきたアディポネクチンについては,「基礎研究」で,新しく
解明されたアディポネクチン受容体およびシグナル伝達機構をご紹
介頂くとともに,「臨床・展開研究」のセクションでその抗糖尿病
・抗動脈硬化作用を中心として「アディポミクスへの道」を解説頂
いた.インスリンシグナル解析においては,とくにそのdistalな部
分が精力的に研究されている.PIP3を代謝するリピッドフォスファ
ターゼ,PI3-KとAkt間をつなぐPDK-1,新規に同定されたAktの基質
AS160のそれぞれについて解説頂いた.また,PI3-Kに依存しない新
しいインスリンシグナル伝達経路およびGLUT4の最終的な細胞表面へ
の表出にかかわるexocyst complexについても紹介されている.ラン
ゲルハンス氏島の生物学では,その存在は唱えられながらも実態が
必ずしも明らかでなかったa細胞,b細胞間でのクロストークについ
ての新知見や,granuphilinを中心としての開口放出のメカニズム
について解説頂いた.合併症に関する基礎研究としては,血管内皮
細胞でのインスリン作用について,組織特異的ノックアウトマウス
からの知見を報告頂いた.また,血管合併症の発症・進展における
PKCの役割とその阻害薬の治療薬としての可能性が解説されている.
臨床・展開研究では,日本人の糖尿病の特質について紹介頂くこ
とを中心の1つとした.Japan Diabetes Complications Study(JDCS)
の中間解析からは,とくにメタボリックシンドロームの観点から日
本人の糖尿病を分析頂いた.疫学調査およびミニマルモデル法によ
る検討からは,日本人のインスリン分泌障害やインスリン抵抗性に
ついて分析されている.また,糖尿病診療の実態がCoDic登録データ
から示されている.Tokyo studyは,緩徐進行1型糖尿病患者で早期
少量インスリン投与がインスリン分泌の低下,インスリン依存状態
への進行を抑制しうることを示したすばらしい臨床研究である.合
併症については,糖尿病網膜症の新重症度分類の背景と有用性を含
めて,網膜症,黄斑症の病態と治療が詳述されている.
今年も糖尿病学の進歩が一望の下にできる一冊となった.編者と
して大きな喜びである.ご多忙の中,執筆頂いた先生方に改めて感
謝申し上げる.
平成16年4月
岡 芳知
谷澤幸生
《目次》
基礎研究
1.フォークスヘッド転写因子Foxo1によるとインスリン感受性
およびb細胞機能調節………………………………………中江 淳
■はじめに
■フォークスヘッド転写因子Foxo1
■肝臓におけるFoxo1の役割
■インスリン分泌とFoxo1
■脂肪細胞分化におけるFoxo1の役割
■筋芽細胞分化におけるFoxo1の役割
■おわりに
2.アディポネクチン受容体の同定とアディポネクチンシグナリング
……………………………………………………山内敏正・門脇 孝
■はじめに
■肥満によるインスリン抵抗性惹起メカニズム
■高脂肪食負荷・FFAによるインスリン抵抗性惹起メカニズム
■PPARgは脂肪細胞肥大とインスリン抵抗性を媒介する―PPARgへテ
ロ欠損マウスでは
高脂肪食による肥満とインスリン抵抗性が抑制されていた―
■PPARg阻害薬による2型糖尿病の治療―PPARg活性の中等度の抑制は
抗肥満・
抗糖尿病作用を有する―
■インスリン感受性調節におけるレプチンの役割
■インスリン感受性が良好なPPARgへテロ欠損マウスでアディポネク
チンの発現が亢進している
■アディポネクチン遺伝子は日本人2型糖尿病の主要な疾患感受性遺
伝子である
■アディポネクチンは白色脂肪細胞由来の主要なインスリン感受性
ホルモンである―アディポネクチン補充は脂肪萎縮性糖尿病のイン
スリン抵抗性を改善する―
■肥満,2型糖尿病ではアディポネクチン不足が存在しインスリン抵
抗性が惹起される―アディポネクチン補充はインスリン抵抗性を改
善する―
■アディポネクチンは生体内で抗糖尿病因子として作用している
―アディポネクチンホモ欠損マウスは耐糖能低下を示す―
■アディポネクチンによる脂肪酸燃焼促進メカニズム<半外BC35>
―アディポネクチンはPPARaを活性化する―
■アディポネクチンによる脂肪酸燃焼促進メカニズム<半外BC36>
―アディポネクチンはAMPキナーゼを活性化する―
■アディポネクチンによる血管壁に対する直接的抗動脈硬化作用
―アディポネクチンは血管壁において脂質取り込み・炎症を抑制す
る―
■アディポネクチン受容体の同定とその機能解析
■おわりに
3.インスリンによる糖輸送促進機構
―AktからGLUT4小胞まで―……………………………………佐野裕之
■はじめに…21
■新規Akt基質の発見
■AS160の構造
■AS160の機能
■AS160とTuberin(TSC2)の類似点
■今後の課題
■最後に
4.インスリンによるGLUT4 の細胞膜へのターゲッティングと
エクソシストコンプレックス(exocyst complex)
……………………………………………井上真由美・Alan R Saltiel
■はじめに
■インスリンシングルにおけるPI3キナーゼ非依存性経路
■脂肪細胞インスリンシグナルにおける低分子量G蛋白質TC10の意義
■TC10の作用メカニズム―Exo70の役割
1.TC10とExo70の特異的結合
2.インスリンおよびTC10によるexocyst complexの脂肪細胞内
局在に及ぼす影響
3.Exo70の脂肪細胞での糖取り込みにおける役割
■最後に
5.PDK-1を介するインスリン作用
……………………………阪上 浩・小川 渉・西澤昭彦・春日雅人
■はじめに
■脂肪細胞におけるインスリン作用
■インスリンによる糖輸送機構を制御するPI3-キナーゼのエフェク
ター分子とPDK-1
■培養脂肪細胞におけるPDK-1ノックダウン
■インスリンによる糖輸送機構を制御するPDK-1
■今後の展望:PDK-1とその細胞生物学的作用検討の必要性
6.リピッドホスファターゼとインスリンシグナル…………笹岡利安
■はじめに
■SHIP2とインスリンシグナル
1.SHIP2の同定にいたる経緯
2.SHIP2の構造と組織分布
3.細胞レベルでのSHIP2によるインスリンシグナルの制御
4.固体レベルでのSHIP2によるインスリンシグナルの制御
5.SHIP2がインスリン作用を特異的に制御するメカニズム
6.2型糖尿病病態でのSHIP2の異常
7.内因性SHIP2の阻害によるインスリン抵抗性病態の改善
■PTENとインスリンシグナル
■SKIPとインスリンシグナル
■おわりに
7.血管内皮細胞におけるインスリン作用………近藤龍也・荒木栄一
■はじめに
■糖尿病網膜症発症のメカニズム
■糖尿病網膜症と血糖コントロール
■血管内皮細胞におけるインスリン作用
■血管内皮細胞特異的インスリン受容体およびIGF-1受容体欠損マウス
1.VENIRKO/VENIFARKOマウスの作製
2.VENIRKO/VENIFARKOマウスの表現型解析
3.血圧の維持と血管内皮生理活性因子
■糖尿病網膜症におけるインスリンおよびIGF-1シグナルの役割
1.網膜症モデル
2.血管内皮メディエーターの発現
■網膜症に対するインスリンシグナルの役割
■糖尿病における網膜血管内皮でのインスリンシグナル
■まとめ
8.膵ランゲルハンス氏島における細胞間のクロストーク…石原寿光
■はじめに
■レポーター蛋白分子とtranscriptional targeting法
1.レポーター蛋白分子
2.transcriptional targeting法
■a細胞の特徴
1.a細胞のシグナル伝達
2.ピルビン酸に対するa細胞の応答
■グルカゴン分泌制御
1.b細胞の分泌反応によるグルカゴン分泌の制御
2.b細胞から分泌される亜鉛イオン(Zn2+)によるa細胞グル
カゴン分泌の制御
■おわりに
9.血糖制御の新しい視点:ランゲルハンス氏島におけるグルタミン
酸シグナリング…………………………………………………森山芳則
■はじめに
■グルタミン酸シグナリングの構成要素
■ラ氏島におけるグルタミン酸シグナリング:2002年以前
■インスリン分泌制御の内因子としてのグルタミン酸:もう1との問題
■a細胞がグルタミン酸を分泌する
■グルタミン酸によるパラクリンシグナリング
■おわりに
10.インスリン顆粒エキソサイトーシスにおけるgranuphilinの役割
……………………………………………………………………泉 哲郎
■granuphilinの発見
■Rab27と調節性分泌
1.Rab蛋白質と小胞輸送
2.granuphilinのパートナーRab27a
3.Rab27aと分泌性リソソーム
4.Rab27aの内分泌細胞での役割
■granuphilin様遺伝子
■granuphilinの機能
1.tethering factorとしてのgranuphilin
2.インスリン分泌への効果
3.膜融合の基本的マシナリー
4.調節性分泌経路におけるgranuphilinの働き
11.PKCと糖尿病血管合併症…………古家大祐・柏木厚典・羽田勝計
■はじめに
■糖尿病/高血糖によるDG-PKC経路が活性される
■PKC活性化は糖尿病血管合併症の発症・進展に重要な役割を演じている
1.PKC阻害薬
2.糖尿病腎症
3.糖尿病網膜症
4.糖尿病神経障害
5.糖尿病大血管症
■おわりに
臨床・展開研究
12.アディポミクスへの道―from bench to bedside―……船橋 徹
■臨床医学と基礎医学
■メタボリックシンドロームのkey molecule,アディポネクチン
■脂肪細胞グリセロール・チャネル分子,アクアポリンアディポース
13.日本人2型糖尿病患者の特徴とメタボリックシンドローム
―Japan Diabetes Complications Study(JDCS)の中間解析からの
知見―………………曽根博仁・赤沼安夫・山田信博・JDCSグループ
■メタボリックシンドロームと2型糖尿病
■Japan Diabetes Complications Study(JDCS)の概要
■日本の2型糖尿病患者の特徴
■日本の2型糖尿病患者における心血管疾患発症率
■冠動脈リスクファクターとメタボリックシンドローム
■ライフスタイル介入の治療的意義
■治療の現況と見通し
14.緩徐進行1型糖尿病:早期少量インスリン投与の有効性
―Tokyo studyから―……………………………丸山太郎・小林哲郎
■はじめに
■SPIDDMの概念と臨床的特徴
■SPIDDMとlatent antoimmune diabete of adults(LADA)
■SPIDDMの診断と膵島関連自己抗体
■SPIDDMのIDDMへの進展抑制(Tokyo study)
■おわりに
15.日本人2型糖尿病の臨床的特性―成因と予後―…………相澤 徹
■はじめに…125
■糖尿病の発症過程からみた日本人の特徴
1.日本人のDM発症過程
2.欧米人やPima IndianのDM発症過程
3.日本人は―BMIが同等の―欧米人より血中インスリン値が低く
IRの程度が軽い
4.DM発症はb細胞障害とIR増大のみで説明できるか
5.まとめ
■予後の面からみた日本人糖尿病患者の特徴
1.日本人高齢DM患者の解析
2.これまでのデータとの比較
16.ミニマルモデルによる日本人の糖代謝解析…………長坂昌一郎
■はじめに
■ミニマルモデル解析の概要
■ミニマルモデル解析による日本人のグルコース代謝指標
1.データベース作成
2.健常人
3.運動選手
4.offspringとIGT
5.IGTと2型糖尿病
6.IGTと2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の頻度
7.健常人とoffspringにおけるAIR,SIの規定因子
■標識グルコースを加えたIVGTTのミニマルモデル解析
1.標識グルコースを加えたIVGTT
2.糖尿病患者における検討
3.運動鍛錬者における検討
4.トレーニング効果の検討
■おわりに
17.糖尿病網膜症・黄斑症の病態および治療(新重症度分類を含めて)
………………………………………芳賀真理江・川崎 良・山下英俊
■概念
■糖尿病網膜症の眼底所見に基づく重症度分類
■糖尿病網膜症の分子病態
1.概要
2.網膜血管の透過性亢進
3.血管閉塞
4.新生血管
■糖尿病網膜症の治療
1.全身的治療
2.網膜光凝固術
3.硝子体手術
4.薬物治療
■おわりに
18.ITを利用した糖尿病データマネイジメント
―CoDiC登録データにみる日本での糖尿病診療の実態―
……………金塚 東・糖尿病データマネイジメント研究会(JDDM)
■はじめに
■根拠に基づいた糖尿病診療
■CoDiCと糖尿病データマネイジメント研究会
■糖尿病診療の実態調査
1.糖尿病専門施設で管理中の糖尿病患者の年齢分布
2.1型糖尿病における治療の実態
3.2型糖尿病における治療の実態
4.糖尿病専門施設における血糖コントロール状況
■まとめ
目次
基礎研究(フォークスヘッド転写因子Foxo1によるとインスリン感受性およびβ細胞機能調節;アディポネクチン受容体の同定とアディポネクチンシグナリング;インスリンによる糖輸送促進機構―AktからGLUT4小胞まで;インスリンによるGLUT4の細胞膜へのターゲッティングとエクソシストコンプレックス(exocyst complex) ほか)
臨床・展開研究(アディポミクスへの道―from bench to bedside;日本人2型糖尿病患者の特徴とメタボリックシンドローム―Japan Diabetes Complications Study(JDCS)の中間解析からの知見
緩徐進行1型糖尿病:早期少量インスリン投与の有効性―Tokyo studyから
日本人2型糖尿病の臨床的特性―成因と予後 ほか)
著者等紹介
岡芳知[オカヨシトモ]
東北大学大学院分子代謝病態学(糖尿病代謝科)教授
谷沢幸生[タニザワユキオ]
山口大学大学院分子病態解析学教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。