臨床医のための糖尿病病理

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B5判/ページ数 241p/高さ 26cm
  • 商品コード 9784787807359
  • NDC分類 493.12
  • Cコード C3047

出版社内容情報

《内容》 序にかえて
 糖尿病あるいは耐糖能異常をもつ人口の増加はとどまるところを知りません.それに伴い,糖尿病合併症をもつ患者さんの増加,それによる死亡率の増加も目立ち,このことが日常の臨床だけではなく社会経済学的にも大きな問題となっています.この問題の解決には,糖尿病の一次予防により発症を阻止すること,あるいは発症してしまった場合,合併症が起こらないように血糖コントロールをすることが最も大切なことですが,実際は容易なことではありません.やはり,なんといっても糖尿病という病気を知り,それに対して具体的かつ適切に対処していくことが遠回りのようでも最も確実で有効な方法だと思われます.ところが,糖尿病の場合,どうしても血糖とか尿糖あるいはインスリンなどに関心が集中し,人間としての全身の変化をみることを忘れがちになります.糖尿病では,進行しない限りなんら自覚症状がないことも多く,合併症がでるまでその対策は遅れがちです.この糖尿病の病態をしっかり把握するには,どのような変化が実際に全身に起こっているのか,そしてどのような影響を糖尿病が全身に与えているのかを実際の眼で確かめるのが,最も記憶に残ることです.特に,臨床医は診療の中で糖尿病の患者さんに実際起こっている組織変化を頭に思い浮かべることが大切であり,それが病態の把握,治療・管理の上で不可欠なことと思われます.
 ところで,糖尿病の病理変化についてまとめられた著書は現在これといったものはなく,筆者の知る限り1966年,今から40年近くも前にLea & Febiger社から発行されたHarvard大学グループのWarren S, LeCompte PM, Legg MAの著になる“The Pathology of Diabetes Mellitus”が最後のものです.この本は優れた内容をもっていますが,現在では古典的なものとなっています.筆者は医学部卒業後,後藤由夫教授(当事)が主宰されていた内科学講座に入り,実際に糖尿病の患者さんを多く診てきました.その後,研究の都合もあって病理学講座に移り,臨床(外科)病理を行う傍ら,糖尿病について基礎と臨床の両面から関心を深めてきました.その間,糖尿病が全身組織へいかに大きな影響を与えるかを常に感じ,機会あれば病理の立場から糖尿病という重大な疾病について,組織変化を中心にまとめておきたいと考えるようになりました.しかし,予想以上に糖尿病という疾患の奥行きは深く,いざ執筆という段になると,筆者独りでまとめることは非常に難しい遠大な作業であることを思い知らされたものです.
 そうしたなかで,周囲の支援もあり,今まで収集したもの,また筆者が調べた範囲の内容で一応の区切りをつけて世に問うことも意義あることと思い,十分な内容とはいえませんが,ここに“臨床医のための糖尿病病理”として上梓した次第です.なにぶんにも,病理臨床の合間を縫っての作業であり,記載に不備があることと思いますが,それらはすべて筆者個人の責任によるものです.なお,本編収載の大半は臨床の先生方から貴重な症例として呈示されたもので,諸先生の優れた観察眼,およびそれを記録しておこうという熱意なしには集まらなかったものばかりです.ただし,一部肉眼写真などカバーしきれず,眼科領域や皮膚科領域ではお借りしたものもあります.
 本書の一番の目的は,臨床の一線で活躍される先生方,あるいはまた糖尿病の患者さんに接するコメディカルの方々も含め多くの方に,糖尿病が代表的な全身疾患であり,糖尿病でどのような変化が実際にみられるかを,できるだけ多数のカラー写真によって示し,病態の理解を深めてもらうことです.そしてその結果として,糖尿病が適切に対処され,患者さんのQOL低下が防がれ,最終的には悲惨な合併症に苛まれる患者さんの数を少しでも減らすことができれば,と願っています.
 本書をまとめるにあたっては,その基礎固めから研究の展開,あるいは症例収集や細々した日常業務に至るまで,たくさんの方々にお世話になりました.
 まず,永井一徳先生(病理学,弘前大学名誉教授),後藤由夫先生(内科学,東北大学名誉教授),豊田隆謙先生(内科学,東北大学名誉教授),山鳥崇先生(解剖学,神戸大学名誉教授),外崎昭先生(解剖学,山形大学名誉教授)の諸先生には,大学卒業後,内科学,病理学,解剖学の多岐にわたって多くのご指導を賜りました.厚く御礼申し上げます.
 また,国際的な医学研究のあり方を身近に指導して下さったDrummond Bowden教授(Canada, Manitoba大学),Gunter Kloppel教授(Germany, Kiel大学)にも謹んで謝意を表します.
 教室の諸君には,長年にわたり症例の蓄積をはじめさまざまな面で苦労をともに分け合い,付き合って貰い,深く感謝しております.最後に,診断と治療社の久次武司氏,小池さつき氏には,計画から出版までの5年以上にわたる彼らの忍耐と励ましなしにはこの本が誕生しなかったことを申し添えて,御礼申し上げます.
2004年正月
筆者記す    

《目次》
A 序 論
1.糖尿病とは
 A.糖尿病の定義
 B.糖尿病の病型分類
 C.病理学的にみた糖尿病の分類と病期
 D.合併症の考え方
 E.日本糖尿病学会の死因調査
2.糖尿病病態理解のための病理学
 A.糖尿病での新知見の蓄積
 B.糖尿病と関連する臓器と組織
 C.細胞の基本的構造と細胞傷害
 D.細胞変性の特徴とその形態
 E.細胞の死(アポトーシスとネクローシス)
B 糖尿病の膵病理
3.糖尿病の膵病理
 A.膵の構造
 B.1型糖尿病での膵変化
 C.緩徐進行性1型糖尿病(slowly progressive IDDM: SPIDDM):
latent onset autoimmune (type 1) diabetes in adults (LADA)
 D.2型糖尿病の膵変化
 E.二次性糖尿病の膵変化
 F.ラ氏島細胞の増殖性疾患(島新生症および膵腫瘍)
C 糖尿病の合併症
4.糖尿病合併症の種類と成因(総論)
 A.糖尿病合併症とは
 B.急性合併症
 C.慢性合併症
5.糖尿病性腎症
 A.糖尿病性腎症の疫学
 B.糖尿病性腎症の診断と病期分類
 C.糖尿病性腎症の病理学的特徴
 D.特徴的病変の形成機構
 E.糖尿病に合併した原発性腎疾患の特徴
 F.糖尿病性腎症の成因論
6.糖尿病性神経障害
 A.糖尿病性神経障害の概念と疫学
 B.糖尿病性神経障害の分類
 C.糖尿病性神経障害の診断と病期
 D.末梢神経系の解剖
 E.糖尿病性神経障害の病理
 F.糖尿病性神経障害と関連する神経病変
 G.耐糖能異常での神経障害
 H.低血糖による神経障害
 I.糖尿病性神経障害の発生機序
 J.成因論からみた新しい治療と病理
7.糖尿病眼合併症
 A.糖尿病眼合併症の種類
 B.糖尿病網膜症の疫学
 C.網膜症の病期と眼底所見の特徴
 D.網膜の構造とその基本的組織変化
 E.糖尿病網膜症の病期分類と病理学的特徴
 F.糖尿病黄斑症
 G.糖尿病網膜症と白内障の病因
 H.まとめ
8.糖尿病と動脈硬化症
 A.動脈硬化症(大血管障害)の意義とその疫学
 B.動脈硬化症(大血管障害)の診断
 C.動脈硬化巣の基本病変
 D.糖尿病での大動脈硬化の特徴
 E.動脈硬化の成因
 F.動脈硬化と危険因子
 G.各臓器における動脈硬化
 H.おわりに
9.糖尿病と心臓
 A.糖尿病での心臓異常の疫学
 B.糖尿病での心臓障害の病態
 C.おわりに
D 糖尿病と多臓器変化
10.糖尿病と消化器
 A.口 腔
 B.食 道
 C.胃
 D.小 腸
 E.大 腸
 F.肝 臓
 G.胆 嚢
11.糖尿病と皮膚・骨・乳腺
 A.糖尿病と皮膚
 B.糖尿病と骨
 C.糖尿病と乳腺症
12.糖尿病と感染症
 A.感染症の位置づけ
 B.糖尿病での感染症発症の素地
 C.糖尿病と関連する感染症
 D.その他の特殊な感染症
 E.おわりに
13.糖尿病と悪性腫瘍
 A.概 論
 B.疫 学
 C.癌の発生母地としての糖尿病
 D.膵癌と糖尿病
 E.子宮内膜癌と糖尿病
 F.大腸癌と糖尿病
 G.その他の腫瘍と糖尿病
E 糖尿病最近の話題
14.糖尿病の予後と死因
 A.糖尿病の有病率
 B.1型糖尿病の予後
 C.2型糖尿病の予後と死因
15.糖尿病最近の話題:中枢神経障害,低血糖による脳障害,アルコールによる障害,横紋筋融解について
 A.糖尿病と中枢神経障害
 B.低血糖 による障害
 C.アルコールによる障害
 D.横紋筋融解症
 E.おわりに
資料写真提供
索 引

最近チェックした商品