内容説明
「日曜日は一週間のうちの一日にすぎない。でも、そうでない日曜日もある」十一歳の少女ユジの失踪をきっかけに、次第に明るみになっていく家族それぞれの秘密。一人ひとりのアイデンティティの揺らぎや個々に抱えた複雑な事情、その内面を深く掘り下げ、現代社会と家族の問題を鋭い視点で緻密に描いた長篇作。ソウルの江南を主な舞台としつつ、在韓華僑のほか中国朝鮮族なども題材に、地勢的にも幅を広げて描くなかで、社会の隅で孤独を抱えながら生きる多様な人びとの姿をあぶり出していく。
著者等紹介
チョンイヒョン[チョンイヒョン]
鄭梨賢。1972年、ソウル生まれ。誠信女子大学政治外交科、ソウル芸術大学文芸創作科卒業。2002年、第一回「文学と社会」新人文学賞を受賞し、作家デビュー。2004年、短編「他人の孤独」で李孝石文学賞、2006年、短編「三豊百貨店」で現代文学賞を受賞。2006年、「朝鮮日報」連載の長編『マイスウィートソウル』が大ヒットしベストセラーとなり、ドラマ化される。巧みなストーリー展開と卓越した観察眼で都市生活者たちの心の機微を描き、圧到的な支持を集める現代韓国を代表する作家のひとり
橋本智保[ハシモトチホ]
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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竹園和明
38
これは唸らされた!。3人の子供がいる韓国の上流家庭。上の2人は父親の前妻の子。末娘は後妻の子だ。その末娘ユジが失踪した事により、この一家それぞれが抱える後ろ暗い事情が浮き彫りになって行く。ユジ失踪の原因は自分にあるのではないかと皆が秘かに思う中、ユジ本人の視点の章に至り謎は明かされるが、その流れを柱にしながら在韓華僑への差別等を交え、“個の集合体”的な家族、さらには韓国という国の薄ら寒い一面を的確に表しているように思った。家族ではない中国人ミルの存在が本作の重要な鍵。ユジを心から案じたのは彼だったのでは。2021/07/03
星落秋風五丈原
36
冒頭、河で死体が発見される。ミステリ小説ならば、この死体の身元を巡って捜査関係者の動きが描かれたり、おそらく死体の関係者だろうと読者が推測できる人物を登場させながら、河に遺棄されるに至る経緯を明かす。しかし本編は、その後ひとつの家族の描写に移る。父、母、娘、息子、そして最後に登場する娘が失踪することがわかる。ではその事が事件になるかと思いきや、すぐにはならない。歪な社会で、いざという時に頼りになるのは家族だと大方が思っている。そう思っていたが、実はその意見すら、今は思い込みにすぎないのだろうか。2021/05/02
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
26
韓国の「セレブ」の家庭の11歳の少女が行方不明になる。残った家族は必死に探しながらも、それぞれが抱える事情でバラバラになっていく。最初からあると思っていた繋がりは実は見た目だけで、もう成人している残りの子どもたちの傷は深く、父親と母親は気も狂わんばかりに必死にながらも、協力する事なく話は見当違いの方へ流れていく。そのイライラする事と言ったら。父親の非合法なひどい商売。韓国の中の中国系の人たちの異邦人的な立場。このひどい状況の中で,最後は少し明るみのひと筋が見えてきそうな感じ。2022/08/22
かもめ通信
19
11歳の少女ユジの失踪をきっかけに、次第に明かされていく家族皆がそれぞれが抱えている秘密!え?これサスペンスなの!?ひたひたとしのびより次第に広がる不気味な怖さが!?2021/05/24
Acha
16
おおお。面白かった…。バラバラすぎる家族の不協和音。激しい軋みが幼い少女にどう降りかかったのか。韓国、台湾、街並みを思い出しながら読み、日本では馴染みの薄い大陸の憂いにも、アジアの湿りはやはりどこか近しいなあと感じたりもした。家族といえども一人一人は個人で、抱える苦悩もなかなか重ならない。それでも徐々に熱を帯びていく、その先。最初のシーンに戻った時。この可愛らしい装丁でこの寂寞感…グッとくる。2021/08/05
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