内容説明
近代以降、人びとは「他の誰でもない私」「ほんものの自己」を目指すようになるとともに、個人の情報や秘密、私的領域の保護を求めるプライバシー概念を重視するようになった。だが情報技術が飛躍的に向上して一般化した現代社会では、プライバシーの位相は大きく変容している。個人の内面や身体、親密さ、私的領域を聖域化してきたプライバシーが、データベースや情報システムを聖域化するプライバシーへと移行しつつあり、それにともなって私的領域と公的領域の境界も意味を失ってきている。こうした現状を、監視カメラの偏在化やデータベースへの個人情報の登録などの事例からあぶり出す。そして、個人の外部にあるシステムが管理する情報によって「私」が形づくられつつある今日の状況が、社会システムのどのような変化に呼応しているのかを解明する。
目次
第1章 変容するプライバシー
第2章 データ・ダブルとファンタジー・ダブル―情報生産の問題としてのプライバシー
第3章 “私”は誰がつくるのか―生産の主体の問題
第4章 内面からデータへ―生産の拠点の問題
第5章 脱親密の社会―自己を支えるものの変遷
第6章 身体とプライバシーの変容―身体がもつ社会的意味の変化
第7章 個人の聖性とプライバシー
第8章 個人記号の計量学
著者等紹介
阪本俊生[サカモトトシオ]
1958年、大阪府生まれ。南山大学経済学部教授、博士(人間科学)。専攻は理論社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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xyzw
14
出版されてからすでに10年近く経過しているが、本著の内容は近年の個人情報とプライバシーを巡る議論において、重要な視座を提供してくれている。技術の発展を契機とするプライバシーの情報システムへの移行と、それに伴って不可避的に生じる認識の変化については、私自身肌で感じてきた事柄が多々あり、本著の主張についても諒解しやすかった。しかし、曰く言い難い「プライバシー」という概念を、「情報の生産の問題」として捉える発想は私には無かったものであり、そうした視点から現代のプライバシー問題を再考するのは非常に有益だと感じた。2020/08/20
フィ
2
東大2010年理文共通。プライバシーの概念が、旧来の「個人は内面からの統御により統一性のある自己を保持するもの-秘密や隠匿されていくもの」から、時代が進展し登場した「外的にデータ化された情報とその履歴をシステムの中で評価、管理されるもの-個人の社会的な自己に関する情報生産の問題とされるもの」へと異なってきたことを論じている。初めの抽象的な内容と同一内容の繰り返し部分は読み進めるのがきつかったが、後半に至って頭に入り、最後には興味深い評論であると思った。2016/04/30
THE.レフトフライ
2
現代的なプライバシー論としてよくまとまっているかと。ただ権利性を有するものか考えてると現代のプライバシーって難しい…2011/01/09