出版社内容情報
美大島を主島とする奄美諸島は自然をみても、文化、言語の点でも琉球弧の一部で
ありながら、行政上は鹿児島県に属する。敗戦後、沖縄同様、米国の統治にはいり、
沖縄にさきだって1953年日本に復帰した。この経緯には奄美の歴史的な事情が反映
している。
和服をきる機会が減じ、安価な海外旅行が乱造される時勢となって、大島紬や観光地奄美
に往年のおもかげは感じられない。それでもなお、奄美をえがいた田中一村や、シマウタを
忘れない元ちとせから、アマミノクロウサギ、リュウキュウアユにいたるまで、独特の文化や自然
を奄美は発信してやまない。
さらに、沖縄と本土のはざまにその歴史をきざんできた奄美を知ることは、国際社会のはざまを
生きる日本にとって切実な問題を、もうひとつの日本の軌跡から学ぶことにもなるだろう。
このような奄美像が手元に届くことを願って本特集をおくる。
【主要目次】
・日本史、世界史の中の奄美―日本復帰五〇周年によせて(上村幸雄)
・アルバム:《奄美の自然》(常田守)
■奄美の歴史
・奄美史研究と大山麟五郎(山下文武)
・近代の奄美(前利 潔)
・近世の奄美について(弓削政己)
・古代・中世併行期の奄美(永山修一)
・奄美考古学の成果から(中山清美)
■奄美からの発信
・アメリカ軍政下の奄美と復帰運動―楠田豊春氏に聞く(聞き手・田畑千秋)
・復帰運動と「奄美ルネッサンス」(林蘇喜男)
・島尾敏雄のみた奄美(藤井令一)
・いま奄美は―日本復帰後の開発と自然・社会環境の変容(薗博明)
・奄美と田中一村―あの頃の思い出(徳永善伸)
・亜熱帯の島の子育て―奄美の郷土文化を保育に(嘉原カヲリ)
・シマウタから元ちとせまで―奄美の歌文化のうねり(酒井正子)
・奄美の「島うた」―その美と真実(松元幸一郎)
・奄美の民俗世界―説話項目を中心に(徳之島井之川の場合)(本田碩孝)
■奄美今昔
・恵原義盛『奄美生活誌』精読(山岡英世)
・シマムユタいまむかし(倉井則雄)
・民具いまむかし(菊千代)
・信仰いまむかし(高橋一郎)
・ハブの民俗いまむかし(田畑千秋)
・闘牛いまむかし(穂積重信)
・大島紬いまむかし(久保井博彦)
・サトウキビいまむかし(藤田清義)
・黒糖焼酎いまむかし(富田恭弘)
・食文化いまむかし(泉 和子)
■シマの生活と言葉今昔
・シマを語る(戦中、戦後の奄美のシマ)―川畑豊忠翁に聞く(聞き手・田畑千秋)
・里のルーツについて―奄美大島の古代地名は笠利町喜瀬崎原から(牧野哲郎)
・葬儀・婚礼・シマユムタ―一九五、六〇年代の風景(出水沢藍子)
・瀬戸内町の今昔―古仁屋というシマから(町健次郎)
・与路島―厳しい自然環境の中で築き上げられた歴史と伝統の島
・喜界島のあゆみ(輝博元)
・信託統治下の子供―天城町浅間から名瀬市へ(岡村隆博)
・エラブで見えてきたもの(出村卓三)
・与論島―土葬と北緯二十七度線(喜山康三)
■じもと研究者とシマユムタ
・岩倉市郎と喜界島方言の今(生島常範)
・長田須磨―奄美を書き続け語り続けた人(須山奈保子)
・金久 正―一九三七年の日記を中心に(海坂昇)
・奄美の研究者・甲東哲(先田光演)
・茂野幽考―奄美の民族研究に捧げた生涯(茂野洋一)
・田畑英勝―奄美に生き奄美を愛した研究者(山下欣一)
・寺師忠夫『奄美方言、その音韻と文法』―危機に瀕する奄美方言の研究(狩俣繁久)
■奄美のウチとソト
・沖縄から奄美を見つめる(名富綾乃)
・(東京)奄美語学校(森貞郎)
・神戸から<奄美>がみえる―神戸奄美研究会の活動(大橋愛由等)
・シマウタの英訳(郡山 直)
・琉球方言と八丈方言―奄美諸方言とのつきあわせを中心に(松本泰丈)