出版社内容情報
21世紀10年代の今日、既存の国際秩序や、20世紀初頭以来その基礎をなしてきた国民国家の理念は、随所でその耐用年限を露呈し始めている。あらたな代替秩序を提起し、その構築を社会にむけて提言するために、従来、違法行為・反社会的逸脱として一方的に断罪されてきた営為を、ここで抜本的に見直す必要が生じている。
本書は、文化交渉・交易全般における「海賊行為」を綜合的に再検討することを目的とし、国際日本文化研究センターで行われた共同研究の報告書である。ここで言う「海賊行為」とは、交易路に対する私掠、著作権・複製権への侵害、公的秩序へのサボタージュ、さらには近年のサイヴァー攻撃などを含む。狭義の美術史、文化史、交易史のみならず、経済史、国際法、情報流通論などの分野の知見をも学際的に取り入れ、国際的視野から葛藤の現場を解明する。
序 文―海賊行為とジグソー・パズルの欠けたピース(稲賀繁美)
研究計画および経緯(稲賀繁美)
第?部 インターネット時代の知的財産権と海賊行為
ネットの海は無法か―インターネットにおける〈海賊行為〉について(多田伊織)
〈ひろゆき〉とは何だったのか―「2ちゃんねる」からも「ニコニコ動画」からも離れて(鈴木洋仁)
マンガ翻訳の海賊たち―スキャンレーションにおける航海術をめぐって(片岡真伊)
反海賊版協定はなぜ破れたか(山田奨治)
[コラム]経営者・川上量生のビジネス書を読む―「説明できない」ニコニコ動画を「誰もやっていない」ビジネスチャンスに変える術(鈴木洋仁)
[コラム]デジタル時代の複製(新井菜穂子)
[コラム]シンギュラリティーより愛をこめて(森洋久)
第?部 剽窃・贋作・模造品の遊泳術
「永仁の壺」と昭和の陶芸史―ニセモノから芸術史を再考する試み(藤原貞朗)
捏造された人魚―イカサマ商売とその源泉をさぐる(山中由里子)
前衛としての生き残り―工藤哲巳の海賊的考察にむけて(近藤貴子)
シミュレーショニズムと日本―あるいは日本現代美術における海賊行為の可能性と限界(平芳幸浩)
展望の《仮山石》について―中国現代彫刻における「仮(偽る)」という戦略(呉孟晋)
[コラム]一八八八年バルセロナ万国博覧会における日本美術品の違法販売について―新史料発掘と紹介(リカル・ブル)
[コラム]画家・藤田嗣治の「著作権」興亡史をたどる―没後五〇年に向けてのノート(林洋子)
[コラム]機略に満ち溢れたインフォーマル経済―タンザニアの模造品交易を事例に(小川さやか)
第?部 「大航海時代」再考―海賊の海の歴史を再訪する
海賊史観からみた世界交易史・試論(稲賀繁美)
人類の敵― グロティウスにおける海賊と航行・通商の自由(山内進)
略奪品か戦利品か― 一六一五年のサント・アントニオ号拿捕事件と幕府の対応(フレデリック・クレインス)
悪石島の寄船大明神とその周辺(榎本渉)
[コラム]一六世紀宣教師記録に見る海賊(滝澤修身)
[コラム]タイと「海賊」(平松秀樹)
[コラム]広州十三行(劉建輝)
第?部 認知か越境か?―近代国民国家体制の制度的綻びと海賊的侵犯行為と
植民地美術行政における海賊的境界侵犯―インドシナ美術学校とベトナム画家の「怪帆の術」(二村淳子)
アントニン・レーモンドとル・コルビュジエ、建築における海賊行為――形式ではなく精神性が与えた影響についての考察(ヘレナ・チャプコヴァー)
フランスにおける「任意の地区評議会」―海賊党の液体民主主義と近年の民主主義運用のふたつの動向から(江口久美)
[コラム]ユーゴスラビア内戦と法―ものうり人の情景(山崎佳代子)
[コラム]一九〇〇年、パリ―模造された大韓帝国(李建志)
[コラム]越境的あるいは海賊的―「タタールの木」をめぐって(今泉宜子)
[コラム]京都における人と野良猫の関係史(春藤献一)
第?部 海賊の修辞学―暗喩と交通
修辞学における西洋と日本と中国―その受容と変容をめぐって(テレングト・アイトル)
“Immature poets imitate; mature poets steal”― テクストの/における〈海賊行為〉にかんする予備的考察(三原芳秋)
二一世紀に海賊化した「邦楽」―宮城道雄による邦楽器の改良と新しい楽曲制作でみる〈海賊活動〉 (申昌浩)
「民主主義」を抱きしめて―石坂洋次郎映画はいかにして「民主主義」を戦後日本社会に受容させるに至ったか(千葉 慶)
[コラム]海賊たちが帰る場所―彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩はもはやノアのもとに帰って来なかった。(『創世記』八、十二) (大橋良介)
[コラム]殿様と熊とアイヌ文様―芸術/工芸/おみやげにおけるデザイン流用(中村和恵)
[コラム]アラブ演劇の(非)流通から〈世界文学〉を踏み外す(鵜戸聡)
[コラム] 「公的研究費の不正使用に関するコンプライアンス研修会」なるものの問題点について(稲賀繁美)
航海日誌抄録―海賊商品流通の学際的・文明史的研究で行った3つの美術展(大西宏志)
あとがき―あらたな海賊学の船出にむけて(稲賀繁美)
共同研究会開催一覧/人名索引/執筆者紹介
稲賀 繁美[イナガ シゲミ]
内容説明
本書は、文化交渉・交易全般における「海賊行為」を綜合的に再検討することを目的とし、国際日本文化研究センターで行われた共同研究の報告書である。ここで言う「海賊行為」とは、交易路に対する私掠、著作権・複製権への侵害、公的秩序へのサボタージュ、さらには近年のサイヴァー攻撃などを含む。狭義の美術史、文化史、交易史のみならず、経済史、国際法、情報流通論などの分野の知見をも学際的に取り入れ、国際的視野から葛藤の現場を解明する。
目次
第1部 インターネット時代の知的財産権と海賊行為(ネットの海は無法か―インターネットにおける“海賊行為”について;“ひろゆき”とは何だったのか―「2ちゃんねる」からも「ニコニコ動画」からも離れて ほか)
第2部 剽窃・贋作・模造品の遊泳術(「永仁の壼」と昭和の陶芸史―ニセモノから芸術史を再考する試み;捏造された人魚―イカサマ商売とその源泉をさぐる ほか)
第3部 「大航海時代」再考―海賊の海の歴史を再訪する(海賊史観からみた世界交易史・試論;人類の敵―グロティウスにおける海賊と航行・通商の自由 ほか)
第4部 認知か越境か?―近代国民国家体制の制度的綻びと海賊的侵犯行為と(植民地美術行政における海賊的境界侵犯―インドシナ美術学校とベトナム画家の「怪帆の術」;アントニン・レーモンドとル・コルビュジエ、建築における海賊行為―形式ではなく精神性が与えた影響についての考察 ほか)
第5部 海賊の修辞学―暗喩と交通(修辞学における西洋と日本と中国―その受容と変容をめぐって;“Immature poets imitate;mature poets steal”―テクストの/における“海賊行為”にかんする予備的考察 ほか)
航海日誌抄録―海賊商品流通の学際的・文明史的研究で行った3つの美術展
著者等紹介
稲賀繁美[イナガシゲミ]
1957年生。東京大学大学院博士単位取得退学(1988)。パリ第七大学新課程統一博士号取得(1988)。国際日本文化研究センター教授・副所長、総合研究大学院大学教授(併任)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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