内容説明
離れ、広がっていくわたしたちの時間を、繊細になぞってゆく。中原中也賞、野間文芸新人賞をうけた注目詩人による、待望の新詩集。
目次
水島
あなたはまだ若い、知らない
調和の入り江
巨大な母、形のいい耳
那覇
熱は内側から
育ち喜ぶ草
憂国
どれも潮のにおいを帯びて
土を打つ
わたしは新しい言葉を
なだれ混じって添う高原
武庫川
帯の彫刻
飽和を保つ
犬たち
ポートランド
荒れる木星表面
説明がいる、外にある
同じ森
あなたはわたしを拡大して
国防
それは燃える形を示す
含まれていく湿りの地面
著者等紹介
井戸川射子[イドガワイコ]
2019年、詩集『する、されるユートピア』で第24回中原中也賞を受賞、21年、小説集『ここはとても速い川』で第43回野間文芸新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
111
著者の小説を読んで、著者の文章にもっと触れたくなりこちらの詩集を。半透明なカバー紙を通して朧げに見える表紙の遠景画のように、かつての思い出が朧げに立ち上がって仄かに揺れる気持ちが言葉の景色として綴られる。誰の記憶か。子との、親との体験の重ね合わせ、見守ってきた時間、見守られた時間、一緒に過ごした時の気持ちは思い掛けない。様々な感情が浮かんでは流れてまた浮かぶ。何ごともスムーズにいくわけじゃなく、何ごとも駄目なわけでもない、そうやって日々が送られる。その積み重ねの積み重ねがこの詩集に重ねられていた。2022/12/18
とよぽん
42
井戸川射子さんの詩集。宇宙規模かと思えば湿った地面や川、海、泉、体内の芝生など自在に言葉が躍動している。しかし、そこに刻まれたものはそこはかとなく寂しげで、切なくて、時には理不尽で複雑だ。遠景・・・表題に少し共感を覚える詩集だが、ちょっと待ってと思うところもあった。2022/09/28
真琴
10
子供の頃、育っていく過程、大人になってから・・・。 そんな人の辿っていく道を思い巡らせながら、懐かしい気持ちを抱いた。 声にして誰かに語り掛けたい。 大切な文章をいただいた2022/12/27
エオリアン
0
遠景というタイトルながら著者の子育てをモチーフにした詩が多く、精緻な描写も相まってパーソナルな近景を集めて遠景に再構成したような印象を持った。詩の中にともに揺蕩いながらみずからの記憶が共鳴するのが楽しい。2024/04/11