内容説明
流浪の果てに真実の詩は見つかるのか―九十歳の詩人の、さらなる一歩を示す最新詩集。
目次
1(その場所へ;ひとつの星;青き刃;港町で;廃屋;何処へ)
2(幽界の夏;消息;忘れ得べき日;海の声;亡霊たち)
3(ひとすじのけむり;冥い海;からっぽ;幸福;錯乱;瑠璃の青)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スミス市松
14
「星もない寒空の下でけものたちはなぜ啼くのか/血を凍らせてどこから追われて来たのか/戦場が近づくたびわたしたちは/急速に磨耗していく活字のように/ことばも意志もむざんにつぶれて/青ざめた紙のたばになっていた」――齢は九十を数え、ひとりの名も無きものとなった詩人の極致が凝縮されている。冒頭の「その場所へ」を読み始めた瞬間から、詩に死を呼び込む固有の空間が立ちあがる。そういうことがありながら、私は現在を自覚しているのだと思う。2017/03/26
ロビン
13
2014年に発刊された平林敏彦の詩集。表題は職や住所が定まらなかった自分をジプシーになぞらえるとともに、詩のイベントでテーマ曲のようにこの曲が演奏されたためという。先に読んだ『舟歌』同様、父親が母親を捨てて家を出て行き、女手一つで育てられたことや、戦争や死の薄暗い気配が「戦場が近づくたびわたしたちは 急速に磨滅していく活字のように ことばも意志もむざんにつぶされて 青ざめた紙のたばになっていた」等の見事なイメージで紡ぎ出されている。「不埒な音符」「黄ばんだ太陽」等の言葉の組み合わせにもはっとさせられる。2023/03/29
二階堂
0
我々が死の気配に近づくとき、自分はさまよいびとなのだという自覚が必然的に付きまとうように思う。我々は何処から来て何処へ行くのか、世界の交錯を放浪者の立場から抽象的な言葉であらわしている。2018/12/09